「平凡な成績の選手が、一夜にしてメダリストに」 アメリカ五輪委員会が「トランスジェンダー選手」の女子競技参加を禁止に LGBT当事者が解説する決断の深層
日本の状況は
2021年の東京大会には、オリンピックの歴史で初めて、トランスジェンダー選手が自認する性で競技に参加した。重量挙げ女子87キロ超級で出場した、ニュージーランドのローレル・ハバード選手である。ハバード選手は性別適合手術を受けているものの、思春期を男性として過ごしたため、筋肉や骨格は“男性時代”に形成したもの。女子選手から、競技の公平性に疑念が湧き起こった。世界一のスポーツ大国・アメリカのオリンピック委員会の今回の決定は、こうした議論に大きな影響を与えることは間違いないだろう。
翻って、日本の状況はどうか。
松浦氏の著書によれば、トランプ氏が大統領令に署名した際、日本オリンピック委員会の杉山文野理事は、「全てのLGBTQ+(性的少数者)コミュニティーに対する差別的なメッセージを発信するものであり、スポーツ界全体に負の影響を及ぼす」との談話を発表、深い懸念を示したという。
杉山氏は元フェンシング女子の日本代表で、引退後、自分の性自認は男性であったことを明らかにしている「当事者」だけに、その影響力は大きいと思われるが、一方で、これを受け、ゲイで作家の伏見憲明氏がX上でアンケートを取ったところ、意外な結果が出た。大統領令を差別的と見るかどうか、LGBTQ+当事者に聞いたところ、92%が「そうは思わない」と回答。逆に「差別的だ」と答えた当事者は4%に過ぎなかったという。もちろん、X上での調査であり、当事者の意見の分布をそのまま反映しているとは限らないが、これを受け、自らも当事者である松浦氏はこう述べている。
〈これまで一番多く(編集部注:トランスジェンダーと競技資格の問題で)メディアに出演してきたのが杉山氏だ。だがその主張に賛同している当事者は思いのほか少ない。取材をしないメディアは、杉山氏の意見がLGBT全体の総意だと勘違いしているのだ〉
東京マラソンでの混乱
日本でも、上記に記したような競技の公平性、安全性を巡る問題点が指摘され、揺り戻しが起こっている。例えば、東京マラソンを主催する「東京マラソン財団」は、2025年から、従来の「男性」「女性」の枠に加え、「ノンバイナリー」のカテゴリーを作った。ノンバイナリーとは、自認する性が男性と女性の枠にとらわれないとする参加者のためのカテゴリーである。
この意味を、松浦氏は著書でこう読み解く。
〈いきなりトランス女性部門を作って彼女たちを女性の部から追い出してしまうと波風が立つ。女性部門に出たいトランス女性は排除せず、協力してもらえるトランス女性についてはまずこのノンバイナリー部門に出場してもらい、将来的には棲み分けができるように促していこうとしたのだと推測する〉
しかし、身体が男性で、性自認も男性の異性愛者である参加者がなぜかノンバイナリー部門で登録され、上位に入ったと告白した例があったという。これなどは、性的指向を、本人の告白以外に、他者が客観的にどのように認識するのか、その困難さを物語っているのである。
阿鼻叫喚
トランプ氏の大統領令は、他にも、刑務所や拘置所を出生時の性別で分けることや、19歳未満の若者には、性別適合手術やホルモン療法を制限することを定めた。こうした動きは、日本に何をもたらしたのか。
松浦氏は著書でこう述べている。
〈マスコミのコメンテーターやLGBT活動家は阿鼻叫喚となった。「LGBT問題について日本は後進国であり、先進国のアメリカを見習え」とのかけ声でやってきたのに、ご本尊のアメリカが豹変してしまったのだ〉
大変動を受けて、今後、日本のLGBT施策がどう変わっていくのか、注目である。
[2/2ページ]



