「妻を見下す夫」に「生活苦」 70代の女ふたりが“耐え難い現実”から逃げた先は
10代で知り合い、同じ時代をまったく別の世界で生きて、お互いに紆余曲折を経ても、つかず離れずの距離感でなんとなく気が合う、同い年の友達は大事だな。たとえ趣味嗜好や思想信条に共通項がなくても、30年以上関係が続いた女友達は、もはや身内と言ってもいい。
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それよりもさらに長く、50年以上の付き合いがある女二人組のドラマ「照子と瑠衣」を見て、改めて女友達について考えてみた次第。
タイトルから90年代の名作映画「テルマ&ルイーズ」が頭に浮かぶが、若い女の衝動的&刹那的な逃亡劇とはちょっとワケが違う。昭和・平成・令和を生き延びた70代の女たちなのだよ。しかも、照子を演じるのは風吹ジュン、瑠衣を演じるのは夏木マリ。穏やかな茶飲み話ではないと分かるよね。70代の女ふたりが逃げるのよ、耐え難い現実から。
照子は専業主婦歴50年強、働いたことがなく、横柄で妻を見下す夫(大和田伸也)に耐えて尽くしてきた。感謝の言葉も思いやりのかけらもない夫の言動に、一瞬殺意が芽生える。そんなときに電話してきたのが瑠衣だ。
瑠衣は歌手だが、仕事がない。マネージャー(山田真歩)から老人施設で歌う仕事を振られたが、性に合わないと突っぱねた瑠衣。自信をすっかり失い、歌うことが怖くなったというのが本音だ。稼ぎがなくなり、住居も強制退去勧告を受け、締め出されてしまう。全財産3万円也。そこで照子にSOSの電話をかけたのだ。
照子は夫の元には戻らない覚悟を決めていた。占いの先生(安斎肇)の別荘を無断で使う算段で旅支度。現地でパートの仕事も見つけ、人生を生き直すつもりだ。瑠衣は困窮から逃れるためだったが、照子の覚悟を理解して、受け止める。
穏やかで品の良いマダムに見える照子だが、この世捨て旅における行動力はたくましく頼もしい。逆に、派手で何事にも無頓着な自由人に見える瑠衣だが、心は繊細で、折れる寸前だったことも分かる。風吹の愛らしさが力強く見えるし、夏木の格好良さがセンシティブな強がりと表裏一体に見える。
そもそもふたりの出会いは中学生時代(演じるのは白山乃愛・坂槇莉緒)。一度は離れたものの、20代の時の同窓会で再会(演じるのは久保田紗友・光宗薫)。お互いの事情と心模様を吐露し合ったふたりは、サヨナラを言わない関係=またいつでも会える友情を約束。
それから幾星霜……70代のふたりはちゃっかり住居侵入&不法占拠の罪を犯し、「犯罪者」「共犯者」とふざけて呼び合いながら寝食を共にしている。そののんきさとずうずうしさは、70代の貫禄と年輪のたまもの。地元の人々(別荘地でヨソモノに優しい)とも徐々に打ちとけ、人生の主語を取り戻す照子と、歌手としての自信を取り戻す瑠衣。奇跡に近い、まさかの邂逅(かいこう)も描かれるようだ。
逃亡劇だが、追われる焦燥感や悲愴感はない。むしろ70代でも心地よい人生のリスタートを切れるかも、と希望も匂わせる。高齢女性の来し方も行く末も描く作品は少ないのでありがたい。先輩方が快適な連帯を見せてくれたら次に続くよ。







