製薬メーカーを仰天させた「医薬品に追加関税200%」のウラ側 トランプ大統領の“本当の狙い”とは

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医薬品輸入額は1兆超え

 貿易統計によると、対米輸入品(2023年)で、もっとも金額が大きかったのは「医薬品」だった。金額にして1兆905億円。穀物や肉を差し置いて圧倒的な輸入超過である。ところが、7月8日、トランプ米大統領は米国内に入ってくる医薬品に200%もの追加関税をかけることを示唆したのである。アメリカの製薬会社といえばファイザーやモデルナ、アムジェンなど笑いが止まらないほど儲かっている会社ばかりではないのか。

 一方、日本からアメリカに輸出される医薬品は4372億円。半導体等製造装置に次ぐ7番目の金額だ。

 そこで、日本製薬工業協会に聞くと、

「日本から米国に輸出されている医薬品の具体的な品目については、企業ごとの事情や機密性もあり、個別にお答えすることは難しい状況です」(広報部)

 との返事だが、ある製薬関係者がこう明かす。

「日本からアメリカに輸出されている医薬品の中には希少疾患向けや向精神薬など、代替が難しいものが含まれています。また、最近では第一三共が製造して世界販売しているADC(抗体薬物複合体)の一種である新型抗がん剤(エンハーツ)などが大きく売り上げを伸ばしています」

狙いは中国

 日本の医薬業界、なかなかに頑張っているのだ。しかし、ADCなどの薬は投与に数百万円を要し、200%の関税がかかると、アメリカの患者とて大きな負担になりかねない。医療ジャーナリストが言う。

「そもそも医薬品の関税については、約30年前のGATT-ウルグアイ・ラウンド(多国間貿易交渉)=WTOの前身=で話し合われていますが、医薬品は関税になじまないという結論になり、それが今日まで続いてきたのです。だから、トランプ大統領が突然表明した医薬品への関税は、世界中の製薬メーカーが仰天したことでしょう」

 ただし、狙いはやっぱり中国だとも。

「おそらく、トランプ大統領は、医薬品を製造する際に使われる原薬の、そのまた前段階の原料をターゲットにしたいのでしょう。あまり知られていませんが、中国は世界の医薬品原料の大半を製造する“原料大国”なのです。これを中国に依存していると安全保障の面でも不安が生じる。そこで、トランプ大統領は原料から最終製品まで一貫して米国内で製造させるため、バカ高い関税を言い出したのではないか」(同)

 どちらにしても、トランプ大統領の「MAGA」に製薬業界までもが翻弄され、全面協力させられるのは間違いない。

週刊新潮 2025年7月24日号掲載

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