コンサル業界を揺るがしたデロイト トーマツ社員の「集団引き抜き事件」 舞台となったのは有名芸能人が出資した高級寿司屋だった
今から約7年前の2018年10月23日夜、あの島田紳助が出資していることでも知られる西麻布の高級寿司屋に、5人の男の姿があった。いずれも大手コンサルファーム「デロイト トーマツ コンサルティング」で同じ釜の飯を食う仲間たち。実はこの高級寿司屋は、前代未聞と言われるコンサル業界の「集団引き抜き事件」を巡る“密談”の現場だった……。
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※本稿は「週刊新潮」2025年7月24日号掲載【短期集中連載第2回 コンサル業界の光と影 前代未聞の「デロイト トーマツ」訴訟でわかった“仁義なき引き抜き工作”】の一部を抜粋/編集したものです。
西麻布の高級寿司屋に集まった5人の男
東京・西麻布、六本木通りから一本入った裏路地にひっそりと佇む瀟洒な低層マンションの2階にある高級寿司屋。今から約7年前の2018年10月23日夜、あの島田紳助が出資していることでも知られるその店に5人の男が集まっていた。
主役は、当時、大手コンサルファーム「デロイト トーマツ コンサルティング(以下デロイト)」の業務執行役員(パートナー)を務めていた「経済安全保障」研究の第一人者、國分俊史氏である。残る4人もいずれもデロイトの社員で、國分氏が率いる「NISTチーム」のメンバーだった。
NISTとは、米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)の略称。NISTが作成したガイドラインは世界中の政府機関や民間企業で採用されており、國分氏は、日本の政府機関や大企業がこれらを導入する際のコンサルティング業務を担っていた。
この日、5人が店に集まったのは“密談”するためだった。彼らはチーム全員で他のコンサルファームに移籍することを画策していたのだ。しかも移籍先は、デロイトと共に「会計系ビッグ4」の一つに数えられる「EYストラテジー・アンド・コンサルティング(以下EY)」だ。
國分氏が語る移籍後のビジョンを、他のメンバーが傾聴する――。それが会食の目的だったが、國分氏には誤算があった。チームのメンバーであるA氏は「付き合い」で会食に参加したに過ぎず、移籍に前向きではなかったのだ。
國分氏はこの会食の翌月にデロイトを退社し、その後EYに移籍。チームのうち3人は翌年2月から3月にかけて氏の後を追った。しかし、A氏は逡巡の末、デロイトへの残留を決断した。
会食から約3年が経った21年6月、そのA氏の姿は東京地裁にあった。この移籍を巡って、デロイトが「違法な引き抜き」だとして國分氏に約1億2000万円の損害賠償を求めた裁判。デロイト側の証人として法廷に立ったA氏は、
「私自身、國分さんですとか、以前に接したメンバーに対してのネガティブな感情というところは一切ございません。にもかかわらず、こうして証人になることによって、結果として(國分氏らと)敵対するような形になってしまったことにつきましては、非常に残念ですし、複雑な気持ちでおります」
悩める胸の内をそう明かした上で、
「私自身が正直にお話しすることが、今現時点でデロイトに所属している職員として、本件に関わった私の責務である」
として、ことの一部始終を詳細に証言したのだ。
〈【前代未聞のデロイト トーマツ社員「集団引き抜き事件」 法廷が「背信的」と断じた“裏工作”の全容から見えたコンサル業界の“闇”】では、A氏が出廷を決意するきっかけとなった「なりすましメール」や、「文春オンライン」まで登場する異例の引き抜き工作がどのように進んだのかについて、そしてコンサル業界で熾烈さを増す“引き抜き合戦”の裏事情まで――。裁判資料や当時のコンサル業界関係者の証言をもとに5000字にわたって詳報している〉



