ウクライナに“真夏の大攻勢”も「5月以降に3万1000人のロシア兵が戦死」…常に数的優位に立つロシア軍が“キーウを制圧できない”決定的な理由

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 ロシア軍はウクライナ領内で大攻勢をかけているが、ウクライナ軍の頑強な抵抗に甚大な被害を受けているようだ。占領地域が増えているのは事実だとはいえ、イギリスのエコノミスト誌は「2022年2月の侵攻以来、最も早いペースで戦死者が出ており、5月1日以降、約3万1000人が戦死した」と報道。ロシアの独立系メディアも「22年の侵攻以来、ロシア軍の兵士は90万人から130万人が負傷したと推定できる」と伝えている。

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 軍事ジャーナリストは「アメリカがトランプ政権になり、ウクライナへの支援が大幅に縮小されています。これをロシアのプーチン大統領はチャンスだと考えたのではないでしょうか」と言う。

「にもかかわらず、ロシア軍はウクライナ軍の返り討ちに遭っています。ロシア軍はクリミア半島を中心とする南部から大軍を北上させ、ウクライナ東部のドニプロペトロウシク州に攻め込みました。ロシア軍は集落の占領を発表するなど戦果を強調していますが、首都のキーウに肉薄しているのならまだしも、東部で一進一退の攻防を繰り広げているに過ぎません。占領地が増えているとはいえ、その進軍速度は1日で50メートルから150メートルと、先の大戦と比較しても非常に遅いのです。NATO(北大西洋条約機構)も『ウクライナ軍の防衛ラインは崩れていない』と発表しています。むしろウクライナ軍は、アメリカが支援を停止したにもかかわらず、よく持ち堪えて善戦していると見るべきでしょう」

 兵士や武器、そして弾薬でも数で勝るロシア軍は、なぜウクライナ軍に撃退され、多数の戦死者を出しているのか。軍事ジャーナリストは「理由の一つとして、兵士の“質”の差が挙げられます」と言う。

「ロシア軍は国民に厭戦気分が蔓延するのを恐れ、一般市民の徴兵には踏み切れていません。今、ウクライナの最前線で戦っているのは囚人兵、カネ目当ての外国人を含む傭兵、そして少数民族を中心とする動員兵だと考えられます」

訓練の差

 こうした新兵に対し、ロシア軍は事前の軍事訓練をほとんど施していないことが明らかになっている。要するにズブの素人を、いきなり最前線に投入しているのだ。

「軍隊の基本的なセオリーの一つに、『兵士は戦場で成長しない』というものがあります。どんな人間にとっても命の危険に晒される戦場は怖い場所です。多くの兵士は戦場で『死にたくない』と無我夢中で動き回るだけであり、戦闘のスキルを習得するなど不可能です。しっかりとした兵士に育てることができるのは安全な場所だけで、そこで徹底的な訓練を行うことで初めて兵士は一人前に育つのです」(同・軍事ジャーナリスト)

 全く訓練を受けていないロシア軍の兵士に対し、ウクライナ軍の兵士は他国で訓練を受けている。

「ウクライナの新兵は安全なイギリスやフランスでNATO軍の訓練を受け、一人前の兵士になって本国の最前線に送られます。彼らは戦場で何をすべきか分かっているので、無駄な死傷者が出ないのです。またロシア国内に攻め込んだウクライナ軍を押し戻しているのは北朝鮮軍の兵士です。彼らはロシア兵より優秀だとウクライナ軍も認めています。皮肉なことですが、北朝鮮軍の兵士は本国でそれなりの訓練を受けているので、ロシア軍の素人新兵よりは使い物になるというわけです」(同・軍事ジャーナリスト)

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