「私が私であること」を貫くゆりやん 「共感」よりも「尊敬」を呼び起こす圧倒的な“強み”とは

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「こうしたい」「これが好き」

 注目すべきは、ゆりやんレトリィバァの「我が道」の歩み方である。彼女は常に、売れるための戦略的計算ではなく、「こうしたい」「これが好き」という内的衝動に従ってネタ作りをはじめとしたあらゆる活動を行っているように見える。そこが彼女の最も非凡なところだ。「女芸人No.1決定戦 THE W」と「R-1グランプリ」で優勝しているのはその証しだ。彼女のまっすぐで嘘のない表現に人々は戸惑いながらも、次第にその魅力に取り込まれていく。

 また、彼女にはどんな状況でも自分から積極的に笑いを取りに行く抜群の度胸がある。いざというときの瞬発力は同世代の芸人の中でも際立っている。バラエティ番組で話を振られたときに、ほかの芸人よりも一拍早くギャグを返したりしている場面をよく目にする。たとえそれが笑いにつながらなかったとしても、空回りした彼女を別の芸人が巧みにフォローして笑いに変えてくれたりする。

 普段の彼女は、どちらかと言うと気が弱くておとなしい人物である。ただ、舞台上では決して引っ込み思案にはならない。むしろ、本来は気が弱いからこそ、いざというときにだけ開き直って、自分を奮い立たせて前に出ることができるのだろう。

 そんな自身の弱さや女性芸人としての生きづらさを自らの武器に変えてきたのも彼女の魅力である。見た目についてあれこれ言われたりすることが多い中で、それを真正面から受け止めて、笑いに昇華してきた。自己肯定感を失わずに突き進んできたその姿勢は、現代を生きる多くの人々にとって強いメッセージとなっている。

 音楽活動においても、彼女はこの調子で自分だけの世界を築いていくだろう。どんなジャンルであれ、彼女の表現には「私が私であること」の強さがある。それは、人々の間に「共感」よりも「尊敬」を呼び起こす。今後、アーティストとしてのゆりやんレトリィバァがどのような活動を展開していくのか、今から興味が尽きない。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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