「吉田正尚」復帰のウラに潜む複雑な事情…Rソックスは「選手にシビアで、見切りが早い」一面も
本調子で健康であれば……
レッドソックスの吉田正尚(32)が現地時間(以下同)7月9日のロッキーズ戦で復帰し、4打数3安打1打点と大暴れした。吉田は昨年10月に右肩を手術し、今春のオープン戦には出場したものの、開幕戦からいきなりのIL(負傷者リスト)入りとなってしまった。5月下旬には重傷による長期離脱を意味する「60日間のIL」へ移行。そのため、
「チームの構想から外れてしまった。トレード放出もあり得る」(現地記者)
との見方も強まっていた。しかし、“さまざまなチーム事情”も相まって、今回の復活劇へとつながった。そのロッキーズ戦後、レッドソックスのアレックス・コーラ監督(49)はこう語っていた。
【写真を見る】復帰して安打も! ファンを前に元気な姿を見せる吉田
「マサ(吉田)が本調子で健康であれば、リーグ屈指の左打者だよ」
指揮官の言葉通りであれば、吉田がDHのレギュラーを奪い返したことになる。だが、翌日のレイズ戦で、コーラ監督はDHにロマン・アンソニー(21)を使っている。
「外野手のアンソニーは将来の4番候補と言われています。大砲タイプでは今どき珍しい、レベルスイングのバッターです。肩は強いんですが、守備は可もなく不可もなくといった感じ。アンソニーは外野でスタメン出場することもありますが、10日のロッキーズ戦ではDHにまわり、若手のクリストファー・モレル(26)をスタメンレフトで使いました。レフトには昨季ブレイクしたジャレン・デュラン(28)もいて、捕手のバックアップ要員であるカルロス・ナルバエス(26)がDHに入る試合もありました。レギュラーを掴みかけている若手、中堅も多く、期待値のいちばん大きいアンソニーを使い続けるのであれば、今はDHがしっくり来ます」(米国人ライター)
さらに付け加えるとすれば、アンソニーは吉田と同じ左バッターだ。吉田の昨季の月間打撃成績表を見てみると、7月は打率3割3分3厘、8月は3割2分6厘と好調だった。「夏男の本番はこれから」とも言えるが、チームはア・リーグ東地区4位と低迷している。このまま行けば、「将来の4番候補を育てる」様相はさらに強くなるだろう。
「MLB公式サイトが何度か、7月末が期限のトレードを予想する記事を特集しています。6月初旬の『環境を変えることで再起が期待できる8人の選手』では、吉田は使い続けてくれるチームに移籍すべきだと書かれており、その後に出た特集でも22年オフに結んだ5年9000万ドル(約117億円/レートは当時)の高額年俸が、DHを探しているチームが実際にあってもネックになるとも伝えていました」(前出・同)
「吉田放出」の可能性はゼロになっていない。復帰戦以降、アンソニーを筆頭とする中堅、若手との厳しい競争が続いている。
「無理をさせるべきではない」
「11日のレイズ戦では吉田が『3番DH』でスタメン出場し、4打数1安打。12日は2打数無安打、13日は4番で出場しましたが、4打数ノーヒット。この間、チームは連勝していますが、その間の吉田は4試合14打数4安打、打点が復帰戦でマークした『1』しかないことが気になります」(前出・現地記者)
3安打1打点をマークした復帰戦後は、球団公式Xでも好意的な声が多かった。しかし、その盛り上がりは持続されなかった。その理由の1つが、吉田がまだリハビリ中だった5月に公開された「ある映像」によるものだという。
米ポッドキャスト番組「The 27th Ballplayer」が、キャッチボール中の吉田の様子を公開した。1球を投じる度に苦悶の表情を浮かべ、時にはキャッチボールのパートナーに「待った」を掛け、ゆっくりと肩をまわし、摩ったりもしていた。その距離は100フィートから120フィート。100フィートは30.48メートル。つまり、ダイヤモンドの塁間より2.3歩ほど長い距離のキャッチボールで苦しんでいたため、レッドソックスのファンは復帰に悲観的なイメージを抱いたそうだ。同番組に悪意はなく、「無理をさせるべきではない」という意味でその映像を流していた。
そんな吉田を“早期復帰”させたのは、チーム事情が大きく影響していた。4打数ノーヒットで終わった13日のレイズ戦で、前半戦は終了。チームは53勝45敗でア・リーグ東地区3位。首位・ブルージェイズとは3ゲーム差で、2位・ヤンキースとは1ゲーム差。ワイルドカードでのポストシーズンマッチ進出が可能な位置ではあるが、伝統球団としては物足りない。
「今季のレッドソックスは序盤から調子が上がりませんでした」(前出・同)
積極的な補強の気運も高まらないなか、起きてしまったのが「生え抜きのスーパースター」の放出劇だった。吉田が復帰するひと月ほど前、ラファエル・デバース(28)がジャイアンツにトレード放出された。この一報にはレッドソックス以外のファンも驚いていた。
「デバースは生え抜きであり、24年から10年総額3億1350万ドル(約465億円・レートは当時)で契約を延長させました。三塁手で『打撃は一流。守備は三流』の典型的な選手です。チームは今春キャンプイン直前、三塁でもゴールデングラブ賞を獲得したアレックス・ブレグマン(31)と契約しましたが、当時はブレグマンがセカンド、看板選手のデバースはサードから動かせないと予想されていました」(前出・同)
しかし、チームは「三塁・ブレグマン、DH・デバース」で開幕戦を迎えた。米スポーツ専門メディア「The Athletic」などによれば、「デバースはDH転向を打診され、不満だった。最終的に受け入れた」という。
事態が“悪化”したのは、20試合ほどが消化された4月下旬。開幕4番を務めた一塁手のトリストン・カサス(25)が左脇腹を骨折。コーラ監督と編成トップのクレイグ・ブレスロウ氏(44)はデバースに「一塁手の兼務」を通達。コーラ監督とすれば、チーム状況に応じた柔軟な対応を求めたつもりだが、デバースは「一貫性がない」ということで球団にも不信感を抱き、「放出」にもつながった。打線の中核を務めてきたデバース、カサスを失い、吉田にもチャンスがまわってきたわけだ。
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