「レザボア」耳切りシーンが伝説に 「マイケル・マドセンさん」がタランティーノ監督作品に欠かせない存在になるまで

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 物故者を取り上げてその生涯を振り返るコラム「墓碑銘」は、開始から半世紀となる週刊新潮の超長期連載。今回は7月3日に亡くなったマイケル・マドセンさんを取り上げる。

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「共犯者になったかのように気持ちを揺さぶられる」演技

 1992年公開のクエンティン・タランティーノ監督による「レザボア・ドッグス」は、巧みな心理描写で今も高く評価されている。

 同作が「耳切りの映画」と呼ばれるのは、マイケル・マドセンさんの演技ゆえである。彼の名は知らずとも、伝説的な残酷シーンは御存じかもしれない。

 宝石強盗のため集まった男たち。互いに素性も名前も明かさず色で呼び合う。周到な計画は警察の待ち伏せで失敗に終わる。内通者がいる。仲間への不信が芽生え腹の探り合いが始まった。

 マドセンさん演じるミスター・ブロンドは、誰が警察に通じていたのか割り出すために警官を拉致。アジトの倉庫で椅子に縛りつけ、拷問にかける。ラジオから流れる軽快な音楽に合わせ踊る姿から一転、剃刀(かみそり)で警官の耳をそぎ始める。そして切り落とした耳に、聞こえるか、と話しかけるのだ。

 映画評論家の北川れい子さんは思い返す。

「狂気なのに演技は過剰ではなく淡々としていた。ユーモラスに踊る姿に思わず笑ってしまった観客は残酷な行為に凍りつき、共犯者、目撃者になったかのように気持ちを揺さぶられました」

 マドセンさんは多くの人が思い描く狂気を強調してもつまらないだけだろうと感じ、監督のテンションの高さもくみ取れた。役作りはしなかったという。

「レザボア・ドッグス」で一躍時の人に

 57年、シカゴ生まれ。父は消防士、母は詩人で脚本も書いていた。映画界を志し83年にデビュー。頑強な役が多かったが、「テルマ&ルイーズ」(91年)ではルイーズの恋人役。煮え切らない姿が注目された。

 こうして翌年「レザボア・ドッグス」で一躍時の人に。

 映画評論家の垣井道弘さんは言う。

「この作品はタランティーノさんが初めて監督を手がけた映画で脚本も担当した。後に監督にインタビューした時、登場人物のキャラクターをまずしっかり創る、すると役柄が勝手に喋り動き出すと話していました。低予算のため役柄に合う俳優を探し出し、マドセンさんはその期待に応えた」

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