なぜ、日枝氏の自宅の前で直撃取材をしなかったのか “好機”をみすみす逃した フジ検証番組

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考えられない及び腰

 中居正広氏をめぐる問題で処分を下された今もなお、彼らには当事者としての意識が欠けている。「たまたま1人の女性社員への対応を誤ってしまっただけであり、それ以外のことについては何も間違っていなかった」と思っているかのような呑気なコメントをしている。

 もちろん、今回の問題に関して港氏、大多氏の責任は重い。ただ、番組全体としては、すでに処分が下された2人を悪者に仕立て上げることで、フジテレビ全体の根本的な体質について反省をすることなく、問題を終わりにしようとする意図を感じた。

 ただ、港氏、大多氏、そして中居氏と深い間柄にあった元編成部長B氏がこれだけの問題行為を繰り返していたのは、彼ら個々人の責任だけに帰結させて良い問題ではない。フジテレビ全体に問題を誘発するような悪しき体質があったのは明らかだ。その部分こそが真に問われるべきことのはずだが、番組内ではそこに踏み込んだ話はほとんどなかった。

 また、長年フジテレビにおける絶対的な権力者の立場にあった日枝久氏、セクハラを報じられた反町理氏などは、今回の問題におけるキーパーソンであるにもかかわらず、番組内で本人たちの映像や音声を一切出していない。これだけの大きな社会問題を起こした組織に対して、報道機関が取材対象者にここまで及び腰になることなど通常は考えられない。

 日枝氏の自宅の前で待ち伏せをして直撃取材をしたり、自宅のインターホンを押してコメントを求める映像を撮るぐらいのことは当然できたはずだ。でも、フジテレビはそれをやらなかった。そんな体たらくでは、本心では反省をしていないし、する気がないと思われても仕方がないだろう。

 今回のトラブルが起こる前から、フジテレビは視聴率が低迷していて、苦しい状況にあった。この騒動はフジテレビが根本的に変わるための千載一遇のチャンスだったはずだ。だが、検証番組の内容を見る限りでは、その好機をみすみす逃してしまったようだ。今後も厳しい状況が続くことになるだろう。テレビ文化に思い入れのある立場としては、そのことが残念でならない。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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