「持ち合い解消」の落とし穴 会社を食い物にするアクティビストからわが社を守る“本当の方法”

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企業防衛とは「できることは全部やる」こと

 昨今、アクティビストが主導する再編が実施されたように見えたり、アクティビスト自らが再編を行ったと主張したりする業界がありますが、果たして本当にそれでよいのでしょうか? もちろん結果としてアクティビストの主張が正しいこともあるかもしれませんが、一見すると再編のようでも、多数の議決権を背景にし、自分たちの売り抜けの手段として、当事者である上場会社がまったく必要性を感じていない行為を引き起こしているだけのアクティビストもいるのではないでしょうか?

「NHK スペシャル取材班 新日鉄vs ミタル」(ダイヤモンド社)に記載されている新日本製鐵三村明夫社長(当時)の発言を引用します。

「鉄鋼業界のさらなる再編は業界に安定をもたらし、しかも必要なのです。しかし、業界再編は鉄鋼業界の手で自ら進めるべきであり、ヘッジファンド・金融資本によって進められるべきではありません」

 異論があることは承知しています。しかし、上場会社の再編は主役である上場会社自らが主導して進めるべきものです。アクティビストや金融機関は本来黒子であり、業界のことを知らない彼らが主導すべきものではないのです。主役が上場会社であり続けるためには、経営の緊張感がなくならない程度の持ち合いは必要なのです。

 もちろん持ち合いだけをやって守りを固めたつもりでも、株価が低いままだと何の問題解決にもなりません。今の時代、安定株主比率が高くても、それを超えるお宝が上場会社に眠っていれば、アクティビストは安定株主比率など気にせず攻撃を仕掛けてきます。

 企業防衛とは持ち合いだけやっていればよい、株価だけ上げておけばよいという話ではなく、持ち合いもやれば買収防衛策も導入する、そして株価も上げる。できることは全部やることこそが企業防衛であり、「これだけやっておけばOK」という話ではありません。そういう時代になったのだと経営者は早く気付き、平時から対策を議論して実行しておかなくてはなりません。そしてその対策を議論する相手を間違えてはいけない。「持ち合いなんてやる時代ではありませんよ」とささやくアドバイザーの腹の底には、上場会社をアクティビストや敵対的買収者のターゲットにさせてがっぽりと儲ける目的があることを忘れてはならないのです。

〈前編の記事【株主総会で“完勝”したフジテレビに見る「安定株主」の重要性 進む「持ち合い解消」の落とし穴とは】では、フジテレビの株主総会の内幕をフックに、「安定株主」の重要性や「持ち合い解消」のリスクなどについて詳述している〉

鈴木賢一郎(すずき けんいちろう)
1997年野村證券入社。引受審査部、IBコンサルティング部などを経て、2016年に独立し株式会社IBコンサルティングを創業。野村證券時代から買収防衛を得意とし、ドン・キホーテによるオリジン東秀の買収、スティール・パートナーズによるブルドックソースの買収案件などで「防衛」に導いている。現在は、平時における企業防衛体制の構築や、有事における企業防衛戦略の実行、IR戦略、アクティビスト対応など、経営にまつわるコンサルティング業務に従。著作に『敵対的M&A防衛マニュアル』(中央経済社)、『株主総会判断型の買収防衛策』(旬刊商事法務No.1752)など(両者とも共著)。最新刊は『株式投資の基本はアクティビストに学べ プロの投資に便乗する「コバンザメ投資」の始め方・儲け方』(朝日新聞出版)

デイリー新潮編集部

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