株主総会で“完勝”したフジテレビに見る「安定株主」の重要性 進む「持ち合い解消」の落とし穴とは

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

強欲なアクティビストからわが社を守るには

 会社を守るとはどういうことか。

 たとえば昨年、村上世彰氏が関与する投資会社や村上ファンド出身の丸木強氏の投資会社が、「ニューヨーカー」「ブルックスブラザーズ」といった有力ブランドを持つアパレルメーカー、ダイドーリミテッドの株式を取得しました。すると村上氏らは、本業のアパレル事業が赤字で立て直しが必要とされる状況の中、潤沢な不動産を背景とした大規模な株主還元を要求。その結果ダイドーリミテッドは、総額130億円規模の株主還元を実施すると公表したのです。

 報道によると、村上氏がダイドーリミテッドの経営者に対して「株主還元をしないならTOBをする」と通告したことでダイドーリミテッドの経営者が折れ、大規模株主還元の実施に至ったようです。

 もちろん、このようなTOBの通告に経営者は屈するべきではなかったし、毅然とした態度で「会社の成長投資に使う資金まで株主還元にはまわせない」と主張すべきだったと私は考えますが、一方で経営者にも生活があります。突然TOBを実施されクビになる可能性や、TOBによって会社を支配され、過激なリストラで従業員をも路頭に迷わせてしまう可能性などを考えると、株主の主張に屈するしかなかった経営者の気持ちもわかります。

 投資家にとっては、賛否どころか「否」しかないように思える持ち合いによる安定株主対策ですが、一時的な高配当・高還元によって株価を急騰させて売り抜けてしまうような一部の株主への対抗策として機能するのは事実です。

 ちなみに村上氏や丸木氏の投資会社は、大規模株主還元を公表した翌日に、すべての株式を市場で売却しダイドーリミテッドから立ち去ってしまいました。成長投資にまわせたであろう資金を株主還元に使ってしまったダイドーリミテッドのこれからの経営を、彼らはもう気にすることはないでしょう。株式を売ってしまった以上、彼らはダイドーリミテッドとは何の関係性も有しませんし、興味もないわけです。一方で残されたダイドーリミテッドの経営者、従業員、取引先、資金を貸し付けている銀行といったステークホルダーは、厳しい業績と向き合い続けることを余儀なくされています。

 私は短期的な利益を得ること自体は全く否定しませんが、今後の本業にかかるかもしれないコストや投資、経営の中長期的な安定性を一顧だにしない、一部の極端に強欲なアクティビストのみが満足するような短期的手法による株価急騰策には賛成できません。そのような事態に陥らないよう上場会社はいまいちど、極端な株主還元策を求めるアクティビスト対策として持ち合いを考え直すべき時期に来ていると思っています。

〈後編の記事【「持ち合い解消」の落とし穴 会社を食い物にするアクティビストからわが社を守る“本当の方法”】では、持ち合い解消によって上場企業がさらされる様々なリスクやなどについて詳述している〉

鈴木賢一郎(すずき けんいちろう)
1997年野村證券入社。引受審査部、IBコンサルティング部などを経て、2016年に独立し株式会社IBコンサルティングを創業。野村證券時代から買収防衛を得意とし、ドン・キホーテによるオリジン東秀の買収、スティール・パートナーズによるブルドックソースの買収案件などで「防衛」に導いている。現在は、平時における企業防衛体制の構築や、有事における企業防衛戦略の実行、IR戦略、アクティビスト対応など、経営にまつわるコンサルティング業務に従。著作に『敵対的M&A防衛マニュアル』(中央経済社)、『株主総会判断型の買収防衛策』(旬刊商事法務No.1752)など(両者とも共著)。最新刊は『株式投資の基本はアクティビストに学べ プロの投資に便乗する「コバンザメ投資」の始め方・儲け方』(朝日新聞出版)

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。