「仕事の連絡にLINEは使わないでください」 若手社員の発言に凍りつく職場…“電話が怖い”だけじゃない社内コミュニケーションをめぐる葛藤

ビジネス

  • ブックマーク

メールでいいと言ってるのだから

 多くのプロジェクトというものは、30人いたとしても、実際に手を動かし、会議を重ねるコアメンバーは5~6人程度である。関係する人の部署の上司や、事務担当、若手なども含めて全部入れてしまうから大規模メーリングリストになり、いつしか未読メールが増え続け、本当に大事なメールを読まなくなる、といった弊害もあった。基本的に「念のため関係者全員に送っておこう」という使われ方をしていたのである。「送った証拠」を多くの人に残しておく、という意味合いもあった。

 一方、LINEやfacebookのDMグループ、さらにはSlack等のアプリは本当に必要な人員にのみ送るような傾向がある。何しろ即座に反応することが求められたりもするからだ。となると、あまりかかわっていない人からすれば「決まったことをメールで送るだけでいいんで、私はグループから外してもらえますか?」なんて言いたくなる。だからこそ厳選されたメンバーでサクサクと情報のやり取りをするようになるわけだ。

 では、前出の「LINEはイヤだ」の人の場合は果たして何を使えばいいのか? 答えは「会社のメールだけにしてほしい」だ。とにかく自身のスマホに仕事関連のメッセージや関係者の名前が表示されることすら嫌悪感があるのだという。というわけで、この若者が加入する前はLINEでメッセージのやり取りをしていたという、あるプロジェクトチームは、連絡手段を急遽メールに変更。メンバーからは「不便だ」「アノ人がLINE使えば済む話なのに…」という意見はあったものの、このグループで一番エラい人が「メールでいいと言ってるのだからそうしよう。何かが苦手な人に苦痛を与える必要はない」と切り替えたのだ。

 あとは、メールやLINEは不可で、ChatWorkを指定する人もいるという。もちろんその人の流儀なので尊重するものの、無料のユーザーは直近40日前までに投稿されたメッセージしか見られない。過去のメッセージを見たいと思ったら、その相手に「アノ時何を書いたか送ってもらえますか」といった若干間抜けな展開になる。

なんで返事くれないんですか

 ここで思い出すのが、2010年頃のTwitter(現X)である。当時日本でTwitterを使う人はそれほど多くなく、利用者は時代の最先端的な扱いになっていた。だから現ユーザーで「2006年10月からXを利用しています」などと表示される人はこの「古参感」を大切にしているのでは。

 2010年当時のアーリーアダプターで、ネット業界の著名人的な人々は「あ、私メールは見ないんですよ。TwitterのDMで連絡いただけますか?」と言うことがあった。今で言うインフルエンサーのため丁重に扱う必要があり、その仕事相手も慣れないTwitterのIDを開設し、「メールでいいじゃないかよぉ……」なんて思いながらDMを使っていたのだ。しかし、この人はTwitterを見る習慣があまりなく、つい見落としていて「なんで返事くれないんですか!」と怒られてしまう。

 かくしてコミュニケーションツールは各人の心地よいやり方があるが、全員が徹底すべきことは「知らない番号・非通知設定の番号・海外発の番号は出ない」である。何しろ特殊詐欺が猛威を振るっているだけに、ここは徹底した方がいい。もちろん、ビジネスでスマホを使っている人は出る必要があるわけだが、それは会社契約にし、個人のプライバシーに関与できないようにすべきである。冒頭の「LINEはイヤだ」という若者も、本能的にこのセキュリティ対策を実践しているのかな、とも思う。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。