お笑い界の「大谷翔平」は誰か 「漫才」と「コント」の二刀流芸人を決める賞レースの行方

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本質的な「笑いのセンス」

 そうした流れの中で登場した「ダブルインパクト」は、従来の賞レースとは一線を画す。漫才師は漫才を、コント師はコントを演じるという既成概念を超えた挑戦であり、観客にも審査員にも、より本質的な「笑いのセンス」が問われる大会になるだろう。

 実際、漫才とコントの両方で結果を残してきた芸人は少なくない。サンドウィッチマンは「M-1グランプリ2007」で優勝後、「キングオブコント2009」でも準優勝という輝かしい実績を持つ。ほかにも、ジャルジャル、さらば青春の光、マヂカルラブリーなど、二刀流としての強さを示した芸人は多い。特に、近年ではコント師が「M-1」に出場するために漫才を始めるケースが増えており、「M-1」という大会の影響力の大きさを物語っている。

 一方で、漫才師がコントに挑むことの方が難易度は高いとされる。漫才は「素の自分」を観客に見せる演芸であるのに対し、コントは演技によって架空の世界を構築する形式である。そのため、コントに不慣れな漫才師が「役を演じる」ことに抵抗を感じやすく、結果として参入が少なくなる傾向がある。

 そうした背景を踏まえると、「ダブルインパクト」はただのネタ合戦ではなく、芸人の適応力、演技力、表現力、構成力など、総合的な笑いの能力が試される大会であることがわかる。漫才とコントのどちらかで突出した才能を持つだけでなく、両方を自在に操る柔軟性と地力が求められる。

 漫才かコントかという二項対立を越境する芸人たちの戦いは、ちょうど野球の世界における大谷翔平のように、二刀流の価値そのものを問うものでもある。「どちらもできる」というのは単に器用であるということではなく、笑いの本質に深く通じている証しでもある。だからこそ、「ダブルインパクト」は意義深く、これまでにない魅力を放つコンテストなのだ。ここからどんなスターが生まれるのか楽しみだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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