始まりは1964年!? “雨中ヘッスラ”で球場を沸かせた男たち 引退試合で披露した「ロッテ」「広島」の選手も
雨中の“現役ラストラン”
その後も、“踊るホームラン王”日本ハム・ウインタースに代表されるように、“雨中ヘッスラ”は外国人選手のお家芸だったが、日本人選手で初披露と報じられたのが、日本ハム・広瀬哲朗だ。
1987年6月9日のロッテ戦、雨で試合中止が決まると、入団2年目の広瀬がベンチを飛び出し、一、二塁を回ったあと、ショートの定位置で好プレーのシャドーパフォーマンスを演じた。当初はこれでお開きにする予定だったが、スタンドから「いいぞ、もっとやれ!」とアンコールを要望する大拍手が起きる。
先輩の島田誠からもけしかけられた広瀬は「引っ込みがつかなくなってしまってね」と苦笑しながら、本塁付近を覆ったシートの上で水しぶきを上げながら、ヘッスラを決め、先輩たちから総額2万5000円を手にした。
雨中ヘッスラのパフォーマンスを広く普及させた“功労者”として知られるのが、ロッテ・諸積兼司だ。
入団時に報道陣から新聞掲載用に婚約者とのツーショット写真を求められると、前代未聞の抱擁キスシーンを提供。入団発表の席でも、「新人王を獲ったら、(ロッテの)CMで中山美穂さんと共演させて」と重光昭夫オーナー代行に直訴するなど、“マリーンズの愛すべきキャラ”として人気者になった諸積は、ファンへのサービス精神も旺盛だった。
入団2年目の1995年頃から、雨が降る中、足を運んでくれたファンに「ありがとうの気持ちを伝えたい」の思いから、雨中ヘッスラのパフォーマンスを始めた。時にはビジターの試合で、対戦チームからも「やってくれ」とリクエストがでるほどのスペシャリストに。
そして、2006年9月24日の引退試合(日本ハム戦)では、晴天にもかかわらず、特別にシートと水が用意され、現役最後の安打とともに十八番のヘッスラで13年間の現役生活のフィナーレを飾った。
諸積同様、引退試合でヘッスラを演じたのが、広島の捕手・倉義和だ。2016年9月25日のヤクルト戦、5日前に現役引退を発表した倉は、8番捕手として先発出場。初回の先頭打者1人限定で、黒田博樹とバッテリーを組んだ。
1回表、黒田は先頭打者・坂口智隆にストレートの四球を与え、ここで倉の役目は終了。正捕手・石原慶幸と交代した。
現役最後の出場を飾るには、ちょっぴり物足りない幕切れだったが、その後、試合は2死一、三塁から雨で中断し、1時間20分後の15時過ぎにノーゲームに。そして、この雨が倉に再び出番をもたらす。
チームメイトたちに「行け、行け」と背中を押されるようにしてグラウンドに姿を現した倉は、シートの敷かれた打席で“エアスイング”して、ダイヤモンドを1周。最後はお約束どおり、水しぶきを上げて、ヘッドスライディングを決め、「黒田さんに『やれ』と言われたんで。今日しか来られない人もいるし、せっかく来てもらったので、何とか記憶に残ればと思って。僕らしくていいんじゃないですか」と満足そうにコメントした。
試合がノーゲームのため、出場は記録されず、“幻の引退試合”となったが、雨中の“現役ラストラン”は、今もファンの脳裏に鮮明に焼きついているはずだ。




