「野党が選挙を怖がってどうするの」 立民の不信任案見送りに小沢一郎氏が痛烈なコメント
【全2回(前編/後編)の前編】
参院選を目前に控え、石破茂首相(68)が打ち出した「現金バラマキ」案が世論調査などで不評を買っている。そんな中、野党第1党である立憲民主党の野田佳彦代表(68)は最後の最後まで内閣不信任案を提出することはなかった。終盤国会で繰り広げられた「大いなる茶番劇」を振り返る。
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6月16日、東京・永田町にある衆院第一議員会館605号室。部屋の主は、立憲民主党の小沢一郎・党総合選挙対策本部長代行(83)である。取材の最中、かつて「壊し屋」と恐れられた男の顔には終始、柔和な笑みが浮かんでいた。
5日前の11日、国会では石破首相と野田代表による党首討論が行われた。そこで野田代表が内閣不信任案に触れなかったことから、
〈野田氏、不信任案見送り検討〉(11日付朝日新聞)
とも報じられ、結果的に不信任案が提出されることはなかった。
以下、国会閉会前に小沢氏が語った内容だ。
「不信任案が通らないと分かっている時は出しておいて、通るかもしれない、となれば出さない。こんな奇怪な話はないだろう。これは、本当に考え直さなければならない。深刻なわが党の問題だよ」
「石破内閣を肯定している、と見られちゃうわな」
不信任案は発議者1人と、50人以上の衆院議員の賛同により提出できる。
「党としては立憲民主党だけが不信任案を出すことができるわけだな。出すべきか、出さざるべきかという迷いを、今ここでしている場合ではない。当然、われわれは『石破自公内閣は信任せず』という意思表示を天下に示すべきだ。出さなければ、石破内閣を肯定している、と国民から見られちゃうわな」
野田代表は会見で不信任案の共同提出に言及したことがある。が、日本維新の会の前原誠司共同代表(63)や国民民主党の玉木雄一郎代表(56)は慎重姿勢を示していた。
「今、不信任案を出したとして、維新や国民民主が反対できるか。反対したり、棄権することは、自公政権を認めるということだろう。そんなことをやったら、国民からそっぽを向かれるよ。ということは、不信任案は出せば成立するってことなんだよ。もう時間がないんだから、早く決断してほしいね」
小沢氏の思いとは裏腹に、不信任案が提出されることはなく、参院選前に対決姿勢を示したかった党内からは批判の声も上がっている。
「野党が選挙を怖がってどうするの」
不信任案が提出されたら、石破首相は衆院を解散する意向を示していたので、元々予定されていた参院選とのダブル選挙に突入する事態になっていた。
「野田代表だけではなく、党内には解散と言われると震えちゃう議員が多い。それが根本的に野党の議員としてのあるべき姿と反している。野党は、選挙があればこそ、政権交代を実現できるんだから。選挙を怖がっているのでは、政権交代できないじゃないか。ましてや、今は野党で数を合わせれば過半数を持っているんだから、堂々と不信任案を出して、与党が選挙をやると言うなら、受けて立てばいいさ」
“政権交代こそ最大の政治改革”と訴えてきたのは、他ならぬ野田代表である。
「それが選挙を怖がってどうするの。国民にウソをついていることになるよ。『選挙嫌なんです』とは、言い換えれば『このままでいいです』ということだろう。言っていることとやっていることが違う。選挙が怖くて政権なんて取れっこないじゃないの」
「玉木君は自分の党が伸びたと、ルンルンだしさ」
野党がまとまりを欠いている現状にも、小沢氏は落胆している。
「去年の衆院選の結果が出た日が最大のチャンスだった。僕はその時、『これで野党政権ができるぞ』と2~3人に話したんだけど、“呼べど答えず”だった。玉木君は自分の党が伸びたと、ルンルンだしさ。誰も野党政権について言わなかった。僕はこれが不思議でしょうがない」
小沢氏の脳裏に浮かぶのはあの“成功体験”のことだ。1993年、細川護煕氏を首相とする、非自民連立政権の誕生――。野田代表が初当選を果たしたのも、奇しくもこの年である。
「細川政権の時は今よりももっともっと大変だった。もはや細川政権のことを覚えている人が、政治家の中でもいなくなったな。あの時の苦労に比べたら、今なんかもう……」
通常、不信任案を巡っては野党が「攻め」、与党が「守り」の姿勢となるものである。しかし、今回は野党が提出をためらい、与党が「出すならどうぞ」と強気に出ている、という逆転現象が起こっていた。小沢氏はそうした状況に苦言を呈しているのだ。
「旧民主党時代のトラウマが」
政治ジャーナリストの青山和弘氏は、
「立憲民主党の野田さんは解散権を握っているも同然の状況でした。これは野田さんにとって大きなプレッシャーです」
と、野田代表の心中を推し量る。
「2012年当時、首相だった野田さんは自民党総裁だった安倍晋三さんとの党首討論の末に解散権を行使して惨敗、野党に転落してしまったという、旧民主党時代のトラウマがある。今回、野党の代表として不信任案を提出して衆院を解散させてしまったら、再び立憲民主党を惨敗に追い込んでしまうかもしれないわけです」
「投票率が上がって困るのは自民党」
もっとも、石破首相側にとっても“大勝負”となることには変わりない。衆参ダブル選挙となれば、86年の中曽根康弘政権での「死んだふり解散」以来、39年ぶりの一大事である。
元自民党事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏が言う。
「過去、衆参ダブル選が行われたのは80年と86年の2回だけ。86年は、前に行われた衆院選の投票率が通常より10ポイント程度下がったために自民党は過半数ギリギリの議席しか取れなかったことを受け、投票率を上げるべくダブル選挙を仕掛けたのです。もし仮に今ダブル選挙をして投票率が上がれば、困るのは自民党ですよ。今のような状況の中で自民党は本当に勝てるでしょうか」
小泉進次郎農水相(44)による「備蓄米大盤振る舞い」の影響か、各社の世論調査で石破内閣の支持率は回復傾向にはある。例えばNHKの最新の調査では、石破内閣を「支持する」と答えた人は、5月の調査より6ポイント上昇して39%となっている。
「一時期、石破さんと話すと“ぼやき”が多かったのですが、支持率が上がってきたからか、このところ活気を取り戻したというか、元気になった感じです」(前出・青山氏)
「支持する人の率は今年1月と同じ」
この点、先の久米氏は、
「NHKの世論調査の結果をよく見てみると、石破内閣を支持する、と答えた人の率は今年1月の数字と同じなのです」
として、こう指摘する。
「つまりコメ問題で支持率が急回復したわけではなく、1月の水準に戻っただけ。国民民主党に落胆する声と、小泉さんのコメの話題がたまたま重なったおかげで数字が上昇しているように見えるだけだと思います」
「国民の期待感が回復したと思い込むのは錯覚」
そもそもそのコメ問題についても、
「小泉さんの対処の速さが目立っているだけで、盛り上がりは一過性のものになるでしょう。備蓄米が2000円台で市場に出てきたものの、コメ全体の価格が大幅に下がったわけではありませんし、これから先、市場に出てくる銘柄米の価格が下がる見通しが立っているわけでもありません」(久米氏)
活気づく「小泉劇場」や支持率のわずかな回復を受け、自民党の一部では来たる参院選について、“大きくは負けないだろう”との見方が広がっている。
「支持率が数ポイント上がっただけで、“選挙に勝てる”と騒ぐのはいかがなものかと思いますよ。国民の多くは『首相は石破さんしかいない』とは思っていません。今のような状況で、国民の自民党に対する期待感も回復したと思い込むのは単なる錯覚ですよ」(同)
真に自民党の支持率を回復させるには、
「世の中や世界情勢に対して生じるさまざまな不満、不安を持つ国民に『3年後、5年後も自民党にやってもらわないとダメだ』と思ってもらえるようにならなければいけません。目の前の、“つま先”みたいな話ばかりしていては支持者が離れていくばかりです」(同)
後編【「3万円という額は、後付けの方便」 現金給付案に専門家から批判の声 「政府の説明はインチキ」】では、久米氏が語る“つま先みたいな話”の最たるものともいえる、石破首相が表明した「現金給付案」について、専門家の声を紹介する。