トランプが「ノーベル平和賞」を受賞したらどうなるか プーチンへの不可解な信頼の裏にあるもの…ウクライナ危機の現在地
今後のウクライナ情勢はどうなる
今後のロシアとウクライナはどうなるでしょうか。最も可能性が高いのは、トランプの仲介により、現在の戦線を基本とした停戦合意が成立するケースです。
この場合、ロシアは占領地域の実効支配を続け、ウクライナは西側からの経済支援を受けながら再建を進めることになります。
しかし、これは長期的な解決にはなりません。ウクライナ国内では不満が蓄積し、政治的不安定化のリスクが高まります。また、ロシアにとっても経済制裁の一部は継続され、国際的孤立から完全に脱却することはできないでしょう。
いずれにしても、和平が成立したら、トランプは、「自分の外交的勝利」として宣伝し、2026年の中間選挙や将来の政治的レガシーに活用しようとするでしょう。トランプがノーベル平和賞を視野に入れていることは間違いありません。
最悪のシナリオは、和平努力が失敗し、紛争が継続・拡大するケースです。ウクライナ国内の強硬派が主導権を握り、西側諸国の一部が独自にウクライナ支援を強化する可能性があります。 この場合、トランプ政権は「ヨーロッパの問題」として距離を置こうとするかもしれませんが、NATOの結束が揺らぎ、ロシアがさらに大胆な行動に出る恐れもあります。
特に懸念されるのは、バルト諸国やポーランドなどへの圧力が強まることです。
第二次世界大戦後の国際秩序の転換点
この危機が示しているのは、第二次世界大戦後に形成された国際秩序の大きな転換点です。国境の不可侵性や主権尊重といった原則が、力による現状変更によって脅かされています。
トランプ政権の「取引」重視のアプローチは、こうした原則よりも短期的な成果を優先する傾向があります。これは、長期的には予測可能性と安定性に基づく国際秩序を弱体化させる恐れがあります。
力による一方的な現状変更を容認することは、将来的により大きな紛争のリスクを高めることになります。特に懸念されるのは、中国や北朝鮮、イランなどの国々が、この状況をどう解釈するかです。
ウクライナ危機の「妥協的解決」は、台湾や南シナ海、中東など他の紛争地域にも影響を及ぼす可能性があります。この危機から私たちが学ぶべきことは、国際秩序の脆さと、それを維持するための継続的な努力の重要性です。
力による現状変更を許さないという原則を守ることは、単に理想主義的な考えではなく、将来の紛争を防ぐための実践的な知恵でもあります。ウクライナの人々は、自国の主権と独立を守るために大きな犠牲を払ってきました。彼らの勇気と決意は、自由と民主主義の価値を再確認させるものです。
国際社会は、この犠牲を無駄にしないよう、公正で持続可能な平和の実現に向けて協力していく責任があります。最終的に、この危機の解決方法は、21 世紀の国際秩序のあり方を大きく左右することになるでしょう。
私たちは今、歴史の分岐点に立っているのです。
***
この記事の後編では、引き続き『ドナルド・トランプ全解説』(Gakken)より、ウクライナ情勢を「明日は我が身」と身構える台湾について、池上彰氏と増田ユリヤ氏の解説をお届けする。そもそも、なぜ中国は台湾を狙うのか。なぜ日本は「親日国・台湾」との国交を断絶したのか――。