音楽プロデュース業でも話題の芸人「藤井隆」の美学とは 音楽としてのクオリティは本物

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初のエッセー集

 5月30日、藤井隆の初めてのエッセー集『マ・エノメーリ』(KADOKAWA)が刊行された。全編が本人による書き下ろしであり、仕事や人付き合いに対する本音を優しい筆致でつづっている。

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 藤井は芸人として舞台やテレビに出ているだけではなく、俳優、ミュージシャンとしてもマルチに才能を発揮している。そんな彼の幅広い活動の中に共通して存在しているのは、独自の「美学」である。

 彼は吉本新喜劇で芸能活動をスタートさせた。ハイテンションで踊って暴れ回る「オネエ系」のキャラクターを演じて注目を集めた。ダンスを交えた「ホットホット」というギャグで一世を風靡した。

 その後、全国ネットのバラエティ番組にも出るようになり、その場の空気にとらわれず、独自の切り口で笑いを生み出していくところが評価された。決して場を乱すわけではなく、調和を守りながらも自分の色を出す。それは彼が吉本新喜劇という集団芸の世界で磨いてきた技術だったのかもしれない。

 そんな彼のテレビタレントとしての代表作とも言えるのが、2001~2006年に放送された「Matthew’s Best Hit TV」(テレビ朝日系)シリーズである。この番組の中で、彼は金髪で派手な衣装の「マシュー南」というキャラクターを演じた。音楽番組風のフォーマットで、彼がのびのびと自分らしい笑いを追求していく画期的な番組だった。ゼロから独自の世界を作り上げて、そこに共演者や見る人を自然に巻き込んでいってしまう。それが彼のやり方だった。

 2000年に発表されたシングル「ナンダカンダ」は大ヒットを記録して、彼はこの年の「NHK紅白歌合戦」にも出場を果たした。だが、彼の音楽活動は「芸人の余技」というレベルに留まらず、ここからさらに深みを増していった。松本隆、筒美京平、小室哲哉をはじめとする超豪華な制作メンバーを起用して、本格的な歌手活動を展開していった。

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