女子と接点がなくても「問題ナシ」 「コミュ障」にこそぴったり 「中高6年男子校」への懸念を徹底検証

ライフ

  • ブックマーク

「オタク」を存分に出せる

「スクールカースト」(生徒間の序列構造)は、中学という時期特有の、勉強やスポーツで見栄を張るための、いわゆる「少しでも女子によく見てもらうための意識」によって形成される。

 こうしてできた序列の上位が、下位と接点を持つことは少なく、同じ序列同士で狭く交流する傾向にある。下位はどちらかといえば、自分を出せず、ひっそり学校生活を送ることになる。この構造が、共学校の中高一貫校ならば、高校段階まで続く。

 また勉強面では、中学生のうちは、上位に女子が位置しやすい。高校生になって、男子が抜き返すパターンが多いのだが、中学入学段階のスタートで、成績が上位になれず、それに圧倒され、自信をなくし、高校までそれを引きずって、大学入試でうまく成果を出せなかった男子も少なくないという。

 こうした共学ならではの問題が、男子校ならおきにくい。

 どんな性格、志向性があっても居場所があるのだ。何かの「オタク」などであってもバカにされにくい。それを存分に出せる雰囲気もある。たとえ「コミュ障」であってもなんとかなるのだ。男子の名門中高一貫校でオタク的な部活動が盛んなのはこういった背景があるからだといえよう。

 京都市の大手塾関係者は、

「真剣に6年間、自分に向き合って、得意、不得意なことなどを知り、社会人になるためのベースとなる『自分の特性』を発見していくのが中高一貫男子校」

 と力説する。

変化を嫌う傾向

 最後に、男子校のデメリットを指摘しておこう。

 難関の男子校は、戦前からながらく続くエリート養成機関的な側面があったところが多い。「進学実績が良かったから」「経済界などで学閥の力が強かったから」など、共学化しなかった理由は諸説ある。いずれにせよ、長い年月をかけて、“男子専用”の学校として独自に発展してきた経緯や伝統にプライドをもつ学校幹部が多い。

 その流れで、多くの塾関係者が挙げるのは、学校経営者の考えが「固い」こと。いわゆる、変化を嫌う傾向があるのだ。

 東京の大手塾関係者によれば、海外大学を受験するにあたって必要な「グローバル教育」や、総合型・学校推薦型選抜に必要な「探究学習」など新しい教育の取り組みは、共学校の方が先行している場合が多いという。さらに、学校主導で何か新しいことをやるということにはめっぽう弱いようだ。

 ある関西の男子中高一貫校では、先進的なライバル校の動きを横目に不安になったOBたちが、動きの鈍い母校の経営者に押しかけて意見したという逸話もあるほど。裏を返せば、生徒の自主性に徹底的に任せてきた校風とも見て取れる。

 こうした時代の流れゆえか、共学化の波もまた起こりつつある。開成中学・高校の野水勉校長のインタビュー(日本経済新聞2023年10月28日号)で、「将来、共学化はありうる」といった発言があったことも話題になった。もしこれが本当におきれば、多くのライバル校でドミノ的に共学化が進行することさえありえる。天下の開成であっても、近年進む共学校人気の動きは無視できない状況になってきているのだろうか。

〈前編の記事【「男子校人脈で食いつなぐ弁護士」も 時代の流れに抗う「男子校」の“真のメリット”と驚くべきビジネスネットワークとは】では、将来のビジネスにおいても役立つ強力な男子校ネットワークの実態など、「中高6年間男子校」のメリットについて詳述している〉

西田 浩史(にしだ ひろふみ)
追手門学院大学客員教授、ルートマップマガジン社 取締役・編集長、教育ジャーナリスト。2016年ダイヤモンド社『週刊ダイヤモンド』記者、塾業界誌記者を経て、19年追手門学院大学アサーティブ研究センター客員研究員、20年から現職。全国5000にも及ぶ塾の関係者(計20,000人)を取材。著書に『中高一貫校vs地方名門 最強の高校』『大学序列』(週刊ダイヤモンド特集BOOKS ダイヤモンド社)など。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 次へ

[2/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。