「ブルートレインの復活」ではないが…“旅心”を刺激する東西のJRが始めた「夜行列車」の中身

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JR西日本の「銀河」

 このような、新しいスタイルの夜行列車には既に前例がある。JR西日本の「WEST EXPRESS 銀河」だ。2020年から営業運転を始めた銀河は、117系電車を改造して座席車・簡易寝台(クシェット)・グリーン個室という構成とし、こちらも濃いブルーの塗装を施す。「銀河」という愛称もかつて東京~大阪間を走った夜行急行から引き継いでいて、117系が国鉄時代の電車ゆえのレトロ感もこの列車のノスタルジーにつながっている。

 運行区間は京都~出雲市の「山陰コース」、京都~下関の「山陽コース」、京都~新宮の「紀南コース」を季節ごとに分け、京阪神とJR西日本エリアの観光地を結ぶ。しかも1往復を昼行・夜行として運転していてそれぞれ違う楽しみ方の旅ができる。

 全ての座席で寝台料金が不要、特急料金のみというリーズナブルぶりは、従来のクルーズトレイン「トワイライトエクスプレス瑞風」「四季島」とは明らかに一線を画し、アッパークラスでなくとも夜行列車の旅を味わえるように。特にクシェットと個室は予約が取れないプラチナチケットと化していて、サンライズ瀬戸・出雲に劣らない人気だ。

 対してJR東日本の新列車は、普通座席がなくすべてグリーン個室、1人用、2人用、4人用の個室に分けていて、WEST EXPRESS銀河よりもややラグジュアリー路線を行く。グレードを上げたプレミアムグリーン個室とグリーン個室は、それぞれ新幹線のグランクラス、グリーン車をやや上回る価格を想定している。

 東京~新青森はグランクラスで片道合計3万円強となるが、もし遠回りになる日本海側の羽越線・奥羽線経由なら運賃も高くなる。寝台料金はかからないが、WEST EXPRESS銀河よりお高めの列車となりそうだ。

 そしてカラーリングこそ青系統だが、JR東日本の喜勢社長は「ブルートレインの復活ではない」と明言している。この方針は、ブルートレインの“スター性”を一部受け継ぎつつも、社会の変化や旅行ニーズの変容に応じたアップデートといえるだろう。

 開放型寝台や、古い車両を使ってのノスタルジック路線は控えている。サンライズもノビノビ座席以外の寝台は全て個室であり、E657系の車両寿命を考えると10年以上の運行継続も可能。少しぜいたくにはなるが、長い目で令和時代の夜行旅スタイルをこの列車で作りたいとの意図がうかがえる。

 1960年代から全国に広がり、今世紀初頭まで鉄道ファンの憧れを集めたブルートレインは、前出の北斗星を最後に、全て姿を消し、唯一残った寝台特急のサンライズも一時は空席が目立って存続が危ぶまれた。

 だが、昨今は動画やSNSを通じて鉄道ファンにとどまらず旅行好きの間でも知名度が広がり、ホテル代の高騰も相まってニーズが復活してきた。この流れにも乗って、新しい夜行列車たちがかつてブルートレインに憧れたファンたちの旅心を刺激していきそうだ。

大宮高史
エンタメでは演劇・ドラマ・アイドル・映画・音楽にまつわるインタビューやコラムを執筆。そのほか、交通・建築など街ネタも専門分野。

デイリー新潮編集部

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