なぜ「撮り鉄」は嫌われるのか? 運転士の間で「撮り鉄が手を振ってきても無視しろ」と囁かれる“切実な理由”
撮り鉄は鉄道会社にお金を落とさない
誤解を恐れずに言うと、撮り鉄が問題視されるのは、鉄道会社にほとんど金を落とさない存在であるためだ。乗り鉄は切符を購入し、列車を利用する。しかし、撮り鉄の多くは入場券を買ってホームに入る一方、カメラや三脚などの重い機材を運ぶため、移動手段は車が中心である。A氏が「金を落とさないどころか、警備に余計な費用が掛かるので、疫病神だと思っています」と話すのも頷ける。
列車を撮影する目的で、ホームで場所取りをして、時には客に向けて怒号を浴びせる撮り鉄の映像を見たことがある人も多いだろう。列車の安全な運行と、何より撮り鉄のホーム転落などを防止するために、何人もの駅員が動員される。入場券しか購入してくれない客にここまでの対応を強いられるのだから、鉄道会社にとって割に合わないのは間違いない。
さらに、列車を撮影すると見せかけて駅員を盗み撮りしている撮り鉄もおり、特に女性駅員が被害に遭っているという。なかには連絡先を聞き出そうとする撮り鉄までいるといい、無法地帯となっている。撮り鉄同士でも他人事と考えるのではなく、迷惑行為に対しては注意し合うべきであろう。
鉄道会社にとってありがたい鉄道ファンとは
では、鉄道会社にとっていちばんありがたい鉄道ファンは、どんなタイプだろうか。A氏がこう話す。
「本来であれば、鉄道を愛してくださっているわけですから、撮り鉄を含め、すべての鉄道ファンをありがたがるべきでしょう。しかし、人員削減などの影響もあって、そんな体制も耐性も現場にはありません。自分は鉄道オタク寄りですし、同じような駅員もいます。しかし、そういう駅員の優しさに付け込む人もいるので、最近はちょっとしんどくなってきましたね。
ありがたい存在は乗り鉄です。グリーン車やグランクラスなどの高い切符を正規料金で買って、列車に乗ってくださる乗り鉄はもちろんありがたいですが、そうでなくとも鉄道を利用してくださる方は大歓迎ですよ。あと、切符を集める“切符鉄”で、切符に“無効印”(使用済みの切符に押されるスタンプ)を求める際に、捺す位置をうるさく言ってこない人も、私にとってはありがたい存在です」
筆者は取材で鉄道を利用する機会が多いが、鉄道ファンと駅員が揉めている光景を目にしたことは一度や二度ではない。また、特急列車に乗るためにホームを歩いていたら、撮り鉄に「邪魔だよ、どけ!」と言われたことがあったため、撮り鉄に対してはいい印象をもっていないのは事実である。
鉄道はモデルのような被写体ではなく、あくまでも乗るものであり、不特定多数の人々が利用する公共交通だということを心得てほしいものである。
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