医療ドラマあるあるの「トラウマを抱えた天才医師」設定だけど… 松本若菜主演「Dr.アシュラ」を輝かせる“名バイプレーヤー”とは
介護だけでなく、医療ケアが必要になったわが父のために、療養型病院(介護治療院)を見学したのだが、正直、この世の果てみたいな病院しかなかった。まだ口から食事を取れるのに中心静脈栄養の説明から入る病院(手間が減って利益が増えるから)、おむつ・病衣代が従量制ではなく定額で月10万円強という病院、ほぼ意識のない老人が大部屋にすし詰めの病院……それで入院費用は月額40万超え、面会も30分程度。父がそんな病院で最期を迎えるのは不憫過ぎるので、在宅みとりにしたわけだが、病院を責めることはできない。赤字経営と人手不足が、通りすがりの素人である私にすら分かったから。中には、備品は看護師の自腹という病院もあった。この国の医療は疲弊していると痛感。
【写真を見る】権力に弱いチョビヒゲおじさんが似合いすぎ! 「Dr.アシュラ」を輝かせる名バイプレーヤーとは?
そんな矢先、NHKでも疲弊した医療の特集を放送していた。Eテレでは「“断らない病院”のリアル」(5月31日放送)、Nスペでは「ドキュメント 医療限界社会 追いつめられた病院で」(6月1日放送)。医師や看護師、医療従事者の過重労働と人手不足の現実、大赤字で経営難、医療の質の低下に崩壊寸前の地方医療など……もう不安と絶望のぎゅうぎゅう詰めでね。あ、ここまで書いておいてなんだけど、違う違う、そうじゃない、今回取り上げるのはこれじゃない。病院にとって赤字でしかない救命医療の現場が舞台だが、すご腕の医師が患者を助けまくる「Dr.アシュラ」だ。
主演は松本若菜。不眠不休で病院に住み着き、第六感で救急要請を察知し、絶対に断らない救命医・杏野朱羅を演じている。ドラマ史上最もポンコツな研修医薬師寺を佐野晶哉、かつては杏野の師匠で、海外から呼び戻されて院長に就任した多聞(たもん)を渡部篤郎が演じる。
初回を観たときに、あまりに院内が暗くて不衛生に見えたため「若菜にもっと光を!」と思ったが、これも赤字経営の病院ならではの経費節減と思うようになった。医療モノに多い「トラウマを抱えた天才すご腕医師」「敵対あるいは反目する身内(病院内)が救われて改心」などで、目新しさはない。でも、医療限界社会という救いのない現状に比べれば、患者を救えているこの病院はまだ平和だ。
で、その平和の象徴(鳩か)となっているのが、コメディー色を一人でけん引する鈴木浩介だ。浩介が演じるのは診療部長・金剛又吉。チョビヒゲに派手なネクタイ、金ずくめというベタな設定。全力で権力者にひざまずく腰巾着、靡(なび)きまくりの風見鶏。金剛は基本オーバーアクションで、劇中で最も表情豊かだ。時に歌い、時に軽やかなスキップで院内を駆け、急患そっちのけでアフタヌーンティーを楽しんだりするクズ医師だ。口癖は「違う、違う」で鈴木雅之リスペクトが香る。浩介が生み出す謎の間合いに爆笑(しかも意外と長尺)。心底どうでもいいキャラだが、実はリアルかも。資金難に人材不足が現場の疲弊を生み、医療の質の低下を招いたことを体現する象徴的存在、ともとれる。現実は笑えないが、金剛劇場がジワジワと笑いを誘うのだ。