自ら「ADHD」をカミングアウト 60歳監督が明かす20代「ホチキス止めも満足にできなかった」
社会適合には苦労
その後は投薬治療を続けながらも、社会適合には苦労も多かった。
「僕がADHDなんで、それをテーマにした映画を作ることにして、クラウドファンディングしたら207万円が集まったんですよ。ただ、この金では映画はできないと思い、懇意にしていたプロデューサーの森重(晃)さんに泣きつきました」
森重氏は「君塚が自分のことを書くなら、映画になる」と語り、監督の出演も含めた企画に発展した。ドラマ部分では、ADHDである主人公(内浦純一)とその妻(蜂丸明日香)、ADHDの息子を育てるシングルマザー(渡辺真起子)の生活を描いた。「僕の症状を投影させています」と語るキャラクターを通じて、当事者と周囲の関係を立体的に表現。一方、ドキュメンタリーパートでは君塚自身も登場し、身近な人々や医療関係者、支援施設などを訪ねていく。
肉体的、精神的な病と闘う日々だが、このところの体調は安定している。
「5、6年前に比べると、いいです。阪本順治監督からは『今は目が飛んでいないから、大丈夫』と言われたので、だいぶ改善されているんじゃないか、と思います」と現在の様子を語っている。
映画と同時に、書籍『もう一度、表舞台に立つために―ADHDの映画監督 苦悩と再生の軌跡―』(中央法規出版)も刊行される。本では映画以上に自身の過去を記し、作家・小川洋子氏が帯文を寄せ、森重プロデューサーがあとがきを担当した。
「僕はADHDだけど、異常者ではないんです。ましてや、変態でもない、障害者なんだ」と語る君塚監督。生きづらさを抱える“声にならない声”への共感と願いを込め、映画と書籍という2つの表現手段を通じて、社会に向けた発信を始めている。
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