「波風は立てたくない」「選挙前の不安定要素は避けたい」のが官邸のホンネ…迷走する「厚労省」を束ねていくのは誰か
数ある省庁の中でも「厚生労働省」が手掛ける厚労行政と各種政策はもっとも生活に影響を与えるものだと言える。その差配をするのは省内で出世を遂げてきた厚労官僚たちだ。省内では今夏の幹部人事が注目を集めている。この通常国会でも高額療養費制度の見直しが迷走し、年金改革法案は難航、さらにはOTC類似薬問題など社会保障政策をめぐる課題が山積する中、伊原和人事務次官(60、昭和62年入省)の去就が最大の焦点となっている。揺れ動く省内の内情を探った。【近藤義春/ジャーナリスト】
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厚労省における事務次官昇進の「王道」は保険局長、医政局長、年金局長あるいは官房長などのポストを経ることだ。特に保険局は医療財政の中枢であり、診療報酬改定など実務力と政治調整力が問われる「出世街道」ともいえる。
昨夏、厚労省では大島一博事務次官が退任し、その後任として前保険局長の伊原氏が就任した。伊原氏は東京大学法学部を卒業後、旧厚生省に入省し、政策統括官(総合政策担当)、医政局長、保険局長などを歴任。旧厚生省出身者の次官就任は伊原氏で7代連続だ。旧厚生系の流れを汲み、事務方の調整役として定評がある。現在60歳とはいえ、次官ポストは国家公務員法の特例で62歳まで延長可能だ。
特に、医療・介護・年金といった有権者の生活に直結する政策において、政権の支持率に大きな影響を与える厚労行政の安定的な運営には経験豊富な幹部が不可欠である。
伊原氏は過去の医療制度改革や医療費適正化政策で実績を残し、政権中枢や与党厚労族とも強固なパイプを持つ。ある与党議員は「根回しがものを言う世界だ。伊原氏はそれができる数少ない人物」と語る。
今夏の参院選を控え、留任するか否かは「波風を立てたくない」という政権の意向と密接に関わる。首相官邸内でも「選挙前の不安定要素は避けたい」との声が強く、伊原氏を続投させたい思惑がある。
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