児童と教諭23人を殺傷した附属池田小事件「宅間守」 捜査員が逮捕後3日間の“姑息な演技”を見破った“一瞬の反応”【供述調書を読む】
演技の理由は「非常に有利になる」
「乙1」とナンバリングされた供述調書は、“大阪府警察”の文字が印刷された用紙にワープロ打ちされている。冒頭には宅間守の本籍、住居、職業、氏名、生年月日が記載され、続けて、
〈上記の者に対する殺人・殺人未遂被疑事件につき、平成13年6月11日大阪府池田警察において、本職は、あらかじめ被疑者に対し、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のとおり供述した〉
との前置きがある。その上で、宅間の証言が始まり、3日間の演技が見破られ、自白するに至った経緯が書かれている。
〈言いたくない事は言わなくていいということは取調の度に聞いているので分かっています。私は、6月8日に逮捕された後、池田警察に連れて来られ、逮捕された事実の説明と弁解を聞いて貰いました。この時は何もかも嫌になったので、何度も自殺をしようとした、死刑にして貰おうと思ったという内容のことを話していることも覚えています。このような弁解にならないような話をしたのには、私なりの訳があります。逮捕された直後に私が話していた薬を飲んだ等という話は全くの嘘です。薬を飲んで事件を起こしたと言えば、精神病院に入院歴がある私にとっては、非常に有利になるということが分かっていたのです。薬を飲んでいて酩酊状態で事件を起こしたと言い、だから事件を覚えていないと言えば、私がやったこと、つまり小学生の大量殺人の罰を逃れることができると考えていたのです〉
演技が見破られたきっかけは「一瞬の反応」
実際に事件の翌日、警察署内での宅間は、異常な振る舞いをしていた。
捜査員によれば、「宅間は急に机の上に両手をおいて、眠るような姿勢を見せて『しんどい。しんどい』とうめくように話し、救急車を呼んで病院に連れていった。薬でどこかおかしい、酩酊しているのかという雰囲気もした」。
その日、はじめて宅間に面会した弁護人は殺到する報道陣を前に、「こちらの言うことがわかっているのか疑問だ。表情がなく合理的に話せない。責任能力に疑いがある」というコメントを述べている。
宅間はこの時のことをこう自供している。
〈私の言動や態度を見て警察では私は精神障害者ではないのだろうかと思っていたはずであると思うのです。面会に来てくれた弁護士の方も、私を精神障害者を見るような目であったという感想を持ちました〉
捜査員たちも宅間の演技に騙され、取調べは宅間のペースになっていたのだ。ところが、事件の2日後、転機が訪れる。6月10日の朝、拘置手続きのため、大阪地裁へ向かう宅間を、警察署の外で大勢の報道陣と野次馬が待ち受けていた。
「人殺し」
「このボケ」
宅間にすさまじい罵声が飛んだ。その一瞬、宅間の表情が変わったのを捜査員は見逃さなかったのだ。
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一瞬の変化で演技を見破った捜査官は、態度を一変させて激しい追及に転じた――。第2回【附属池田小事件「怪物・宅間守」 自白で流した涙は「事件を後悔して出たものではありません」】では、ついに“落ちた”宅間の様子や、悔悟の念と殺意が交錯するその後の供述などについて詳しく伝える。
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