「あんぱん」ヒロインへの“苦手意識”は変わるのか 考え抜かれた脚本、のぶが見せた“変心”

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登美子の嵩への愛

 非情な母親と見る向きが多かった登美子(松嶋菜々子)は、我が子・柳井嵩(北村匠海)を愛していた。朝ドラこと連続テレビ小説「あんぱん」の第50回での話である。また、嵩の上官役で妻夫木聡(44)が登場した。これでドラマに主演した経験のある出演者は20人目となる。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

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「嵩、死んじゃだめよ!」

 高知県御免与町の住民が出征する嵩を見送る中、登美子は我が子にそう命じた。嵩が幼かったころを想起させた。

 さらに登美子は嵩に対し、逃げ回ってもいい、卑怯だと思われていいと説いた。ミッドウェー海戦のあった1942(昭17)年のことだ。

 近現代史の資料を調べると、本心では登美子と同じような思いを抱く家族が多かった。だが、表向きは皇国に命を捧げなくてはならないとされた時代だ。

 それでも登美子は人目を憚らず、「死んじゃだめ」と声を上げた。よほど嵩を失いたくなかったのだろう。

 これまで登美子は非情と見られてきた。無理もない。1927(昭2)年の再婚時、8歳の嵩を捨てた。弟の千尋(中沢元紀)が養子になっていた義兄の医師・柳井寛(竹野内豊)の家に置き去りにした。第3回のことだった。

 同じ年だった第10回、嵩が母恋しくて登美子の再婚先を訪ねると、「何しにきたの」とすげなかった。再婚相手には嵩のことを「親戚の子」と説明した。

 もっとも、嵩が再婚先に行けたのは、登美子が自分の住所を記したハガキを嵩に出したから。嵩との縁を切るつもりはなかったのだ。

 どこで嵩の受験を知ったのか、東京高等芸術学校の合格発表も見に行った。1937(昭12)年、第25回のことだ。嵩が寛と一緒にいたので、そのまま黙って帰った。

 登美子の矛盾する行動を解き明かすヒントは嵩のこの言葉にあるだろう。「昔はよく笑っていた」(第18回)。一方で登美子は嵩が懸賞漫画で賞を獲るなど認められるたび、「やっぱり清さんの子ね」と言い、清のことを強調した。

 清(二宮和也)は病死した登美子の元夫。嵩と千尋の父親である。登美子はいつまでたっても清と暮らした日々が忘れられなかったのだろう。

 第43回。登美子と嵩は東京・銀座のパン屋「美村屋」で4年ぶりに偶然、再会する。1940(昭15)年だった。

 登美子が美村屋に出向くのは、家族4人が幸せに暮らしていたころを思い出させる場所だからではないか。

 登美子は嵩にこう言った

「ここのパン屋さん、おぼえてる?」

 おぼえていてほしかったのだろう。母子の形はさまざまだ。

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