本気の「かくれんぼ」で海外賞受賞の快挙 「新しいカギ」はフジ再生の希望となるのか

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独特の空気感

 しかも、学校という空間はどこか閉鎖的で、そこにしかない独特の空気感がある。生徒たちが日々を過ごす教室、理科室や体育館など、非日常のようで日常でもある空間を舞台にすることで、自然と「一緒にかくれんぼしているような感覚」を生み出している。

 また、この企画のユニークさは「学生が主役になる」という点にある。芸人たちが隠れるのを、現役高校生たちが真剣に探す姿は、テレビ制作者の演出を超えた「生のリアクション」に満ちている。生徒たちが予想外の行動を見せたり、普段は見せない真剣な表情を見せたりすることで、視聴者も自然と引き込まれていく。まるで文化祭のクラス対抗イベントを見ているような熱気があり、視聴者もその場にいるような感覚を呼び起こす。

 芸人たちが学校で隠れるときには、プロの美術スタッフが持ち前の技術を生かして、さまざまな工夫をこらし、見つかりにくい隠れ場所を作り上げている。子供の遊びであるかくれんぼを大人が本気でやるということの面白さがこの点にも表れている。

 さらに、かくれんぼというシンプルな遊びに、番組特有のコント的な笑いが混じるのも魅力の一つだ。かくれんぼ中にハプニングが起こったり、奇抜な隠れ方をしたりするのが、単なる真剣勝負にとどまらないユーモアを生む。見つかった瞬間のリアクションはもちろん、見つかった後の生徒たちとのやり取りも、まるで青春ドラマにコミカルなスパイスを加えたような味わいを生み出している。

 視聴者が自分の思い出や学生時代の気持ちを重ねて見られるだけでなく、出演者の本気度と笑いの要素が絶妙に融合し、唯一無二の空気感を持つ企画になっている。結果として、若者を中心に話題になり、番組全体の人気を押し上げる存在となった。

「学校かくれんぼ」は、単なるバラエティの企画にとどまらず、視聴者にとって「自分も参加してみたい」と思わせるような「青春の追体験」を提供している点が、何よりの強みなのだ。

 どん底の苦境に陥っている現在のフジテレビは、前向きに考えるなら根本的に生まれ変わるチャンスでもある。「新しいカギ」が国際的な賞を受けて評価されているのは明るいきざしである。このような新しい手を次々に打っていくことで、少しずつ視聴者の信頼を取り戻すことができるのではないか。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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