ハグ会でアイドルに無理やりキスも 「推し活」は本当にポジティブなものなのか… 相次ぐ「暴走ファン」による事件
「推し活」という言葉が定着して久しいが、一方で「推し活」の名の下に迷惑行為や支配欲に満ちた振る舞いに及ぶ「厄介ファン」の存在が、少しずつだが確実に目立ち始めている。ライターの冨士海ネコ氏は、「推し活」時代においては「引く」ことが非常に重要だと指摘する。
***
【写真を見る】今年6月に再集結するBTS 文在寅元大統領との記念写真も
あなたの「推し」は誰?――そんな問いに答えられないと、どこか堅物に思われてしまう。それほどまでに日本で「推し活」というのは、ポジティブな営みとして定着したのではないか。かつては限られたファンのみが熱中する行為だったはずが、今では老若男女問わず参加する文化として、社会的にもバックアップする空気ができてきた。推し活をきっかけに地方を訪れるファンが増えるなど、新たな観光資源として活用される事例も増えている。
だが、その一方で、「推し活」の名の下に自らの行為を正当化し、迷惑行為や支配欲に満ちた振る舞いに及ぶ「厄介ファン」の存在が、少しずつだが確実に目立ち始めている。
先日はプロレスラー・KENTA選手に対し、入場時に女性客が口に含んだウーロン茶を吹きかけるという迷惑行為を行った。本人にも注意をして退場となったというが、KENTA選手にとってはプロレスデビュー25周年という大事な日だっただけに、相当な不快感が残ったようだ。
この女性は、もしかすると祝福のつもりだったのかもしれない。しかし、それは応援ではなく、相手の身体的安全を脅かす攻撃行為である。問題は、「推し活」の熱量の高まりが個人的な感情の爆発にすり替わるとき、推し本人の意思や尊厳を完全に無視してしまう点にある。さらにいえば、それは「推し活」という名の下に承認欲求を爆発させているだけ――そんなファンが増えているのではないだろうか。
「好きだからやった」というゆがんだファン心理 SNSが加速させた「愛」の暴走
かつてジャニーズ(現STARTO)タレントの追っかけの中には、過度なつきまといや郵便物を盗んだりするファンを「ヤラカシ」と呼んで忌避する文化があった。一方でそうした迷惑行為を「やらかす」背景にはSNSの普及があり、「顔を覚えてくれた」と他のファンへのアピールやけん制に使うケースも報告されている。
同様の行為として問題になったのが、「ハグ会」でBTSのメンバーJINさんの首筋に突然キスして話題となった日本人女性の存在だ。韓国警察は性暴力処罰法違反の疑いで書類送検した、というニュースは大きな反響を巻き起こした。
真偽は定かでないが、この女性は自身のブログで「唇がJINの首に触れた。肌がとても柔らかかった」との投稿をしていたとされる。それは単に参加報告というよりは、他のファンを出し抜いて推しとキスできたという優越感の誇示でもあったのではないだろうか。
SNSは自分の感情を即座に発信し、多くの共感や「いいね」を得ることで、自分の存在が肯定されたと感じるツールだ。推しの写真を加工して投稿したり、ライブに行った報告をすることは、自分の推し活の「証明」でもある。だがそれが極端になると、「私の推し活を見て!」「私はこれだけ推しを愛している!」という推しを通じた「自己表現」へとすり替わる。それ自体が悪いわけではないが、行き過ぎると「推しに気付かれたい」「私だけの推しでいてほしい」というゆがんだ期待や、他者との競争に転化してしまう。
「好きだからやった」は、決して免罪符にはならない。しかし、「直接思いを伝えたい」「ほかのファンよりも近くで推しを感じたい」といった熱意は、「推し活」を盛り上げる要因にもなる。「推し活」はポジティブな行為とされる空気の中で、ファンを強く注意することにためらいを感じる運営も少なくない。そうした「推し」側の揺らぎにつけ込むようにして、迷惑行為は次第にエスカレートしている。
さらに、それらの行為がネットニュースで取り上げられ、SNS上で拡散されることにより、一部のファンは他者からの注目を「承認」と錯覚し、自己愛を肥大化させていく。その結果、「推し活」の名の下に行われる行動が、いつしか「自分を認めさせること」へとすり替わり、本来の目的を見失った迷走が加速しているように見えるのだ。
次ページ:暴力沙汰に発展した「≠ME」イベント 今や「出演者」となったファンたち
[1/2ページ]