なぜ、酒類業界は「50代女優」を求めるのか 「原田知世」「鈴木京香」「天海祐希」が持つ魅力
50代半ば過ぎの女優が台頭
50代半ばを過ぎたベテラン女優2人が、今年に入ってからアルコール飲料とノンアルコール飲料のCMに相次いで起用された。原田知世(57)と鈴木京香(56)である。ほかに天海祐希(57)が昨年から登場。今、どうして酒類業界は50代女優を求めるのか?【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】
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原田知世、鈴木京香、天海祐希がアルコール飲料とノンアル飲料のCMで、顔を務めている。
過去の歴史を振り返ると、50代半ば過ぎの女優がアルコール飲料とノンアル飲料のCMに3人も顔を揃えることは異例。CM界の事件とすら言える。これは偶然が重なったわけではない。社会環境や価値観の変化がこの3人を求めた。
原田が4月下旬から登場しているCMはサントリーのビールテイストのノンアルコール飲料「オールフリー」。サワーテイストの同「オールフリークリア」のCMにも出ている。
原田の新規のCM契約は2年ぶり。共演しているのはバッテリィズである。エース(30)と寺家(34)によるお笑いコンビだ。
一方、鈴木は2月中旬からサッポロビールの「サッポロサワー 氷彩1984」のCMに出演中。1984年に酒場向け商品として生まれ、人気を得てきたサワーの市販版だ。
天海は昨年4月から「キリンビール 晴れ風」のCMに登場している。内村光良(60)、今田美桜(28)、目黒蓮(28)と共演している。
アルコール飲料とノンフルコール飲料のCMは放映量が多い。たとえばテレビ朝日の場合、全スポットCM(番組と番組の合間などに流れるCM)のうち、アルコール飲料を含む飲料・嗜好品が7.4%も占める(1~3月)。
多くのCMがストップしたままのフジテレビを除くと、他局もそう大きな違いはない。各局にとって両飲料のCMはドル箱。それに出演することも芸能人も花形なのだ。
放映回数が多い分、芸能人に入る契約金もほかの商品より高くなる。逆に安いのが女優の出演する化粧品である。
化粧品のCMは映像が美しく、商品イメージも良いから、多くの女優が出演を強く望む。それでも商品は限られている。だから契約金は下がる。CM界にも需要供給の法則は当てはまる。
一方で消費者金融などのCMは自分のイメージダウンを恐れて敬遠する芸能人が珍しくない。このため、高額の契約金が用意されることが多い。
「広告代理店には芸能人ごとに契約金が書かれたランク表がある」というのは都市伝説である。契約金は商品の性質や価格によって全く違う。CMの放映期間、登場媒体数などによっても大きく変動する。ランク表など存在するはずがないのだ。
なぜ年齢は上がった?
2010年代までアルコール飲料とノンアル飲料のCMには20代から40代までの男女芸能人が起用されることが圧倒的に多かった。メインターゲットがこの世代だった表れである。
たとえば10年前の2015年の場合、キリンビール「のどごし オールライト」のCMに登場したのは木村佳乃(49)とチャンカワイ(44)。同じ年のアサヒビールは「アサヒスーパードライ」のCMに福山雅治(56)を起用した。
1980年代後半から2000年代前半のビール業界はキャンペーンガールを起用した。水着の若い女性がジョッキを片手に浜辺で踊るようなCMを流した。
それでは今はなぜ50代半ばを過ぎた女優がアルコール飲料、ノンアル飲料のCMにおいて脚光を浴びているのだろう。それはメインターゲットが上方修正されたから。原田の「オールフリー」も30代から50代を主なターゲットにしている。
ビールテイストのノンアルコール飲料は飲酒運転根絶の観点から2000年代に生まれたが、今は健康志向から飲む人が増えている。アルコールのみならず、カロリー、糖質、プリン体もゼロであるためだ。
50代の男女は特に健康志向が高い。そう考えると、原田の起用は理にかなっている。バッテリィズの2人も30代だから、ターゲットに合致している。
原田の代表作といえば初主演映画「時をかける少女」(1983年)。本人が15歳のときの作品である。42年前の作品が代表作であり続ける女優も珍しい。
それを揶揄するつもりは毛頭ない。本人の才能や努力によって、ずっと瑞々しさを失わないのだから。
原田は外見の変化も大きくは感じさせない。これが健康志向のノンアル飲料のCMに起用された理由に違いない。
鈴木がCMに出ている「氷彩1984」は昭和後期から酒場で飲まれていたサワー。このため、映像内の設定も昭和後期と現代の2つである。
鈴木はまず昭和後期の雰囲気に満ちた酒場で大型グラスに注がれたサワーを飲む。次に缶入りの同じサワーを口にする。どちらの場面でも違和感がないのは、鈴木が若々しいからだろう。
主なターゲットは公表されていないが、やはり50代を強く意識しているようだ。昭和後期という設定の映像が使われるし、商品名にも1984年という年号が入れてあるのだから。
天海がCMに登場する「晴れ風」は柑橘系の爽やかな香りが特長。ターゲットはあまりビールを飲まない若者からハイボールに流れていた40~50代など幅広い。これを踏まえると、目黒と今田のような若手から天海と内村というベテランまで顔を揃えた理由が見えてくる。
なぜ、「氷彩1984」と「晴れ風」は50代を意識するのか。背景にあるのが若者の酒離れなのはお察しの通りである。
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