「真の勝者はニデックでも牧野フライスでもなく…」 “異例の買収劇”の内幕と永守重信氏の次なる狙い

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永守氏の次なる狙いは

 今回の件が、「永守氏でもできなかったのか」と敵対的買収の流れに水を差す可能性はあると鈴木氏は指摘する。しかし一方で、永守氏自身の動きがこれで止まるわけではない。

「同社は2030年までに売上高10兆円という目標を掲げています。工作機械事業だけでも1兆円の売上を目指しているといいますから、別のメーカーを狙う可能性はあるでしょう。たとえば同分野大手・DMG森精機の森雅彦社長は今年1月、MBO(創業家による企業買収)について触れながら、『(他社から買収提案を受けたら)大借金してでも独立性を保ちたい』と述べていますが、それでは防衛はできないんですよ。MBOとは基本的にファンドの力を借りなければ実現しないものなのですが、ファンドが決めるMBO価格よりも、同業他社が期待するシナジー効果分も上乗せされたTOB価格の方が、理論上高くなるわけです。それに一般的にファンドは経営権を取りますから、MBOとは買収されることにほかなりません」

 その次なる狙いとして、牧野フライスが再浮上する可能性も排除はできないのだ。

「今回牧野フライスが防衛できたのは、対抗策が優れていたからではなく、ニデック側の事情による部分が大きい。そして何より、牧野フライスの25年3月期の決算短信を見ると、『公開買付関連費用』、つまりアドバイザリーフィーとして13億円が計上されている上、今期は10億円程度の追加費用が生じるともいわれています。ニデックが企業イメージを下げただけでなく、牧野フライスとしてもさんざん振り回された挙句多額の出費が発生したわけですから、やはり本来は『有事にならないための平時の防衛策』こそが重要だと、私は思うのです」

 結局得をしたのは、莫大な利益を手にした「アドバイザー」だけということか。ニデック、牧野フライスの“次の一手”やいかに。

鈴木賢一郎(すずき けんいちろう)
1997年野村證券入社。引受審査部、IBコンサルティング部などを経て、2016年に独立し株式会社IBコンサルティングを創業。野村證券時代から買収防衛を得意とし、ドン・キホーテによるオリジン東秀の買収、スティール・パートナーズによるブルドックソースの買収案件などで「防衛」に導いている。現在は、平時における企業防衛体制の構築や、有事における企業防衛戦略の実行、IR戦略、アクティビスト対応など、経営にまつわるコンサルティング業務に従。主な著作に『敵対的M&A防衛マニュアル』(中央経済社)、『株主総会判断型の買収防衛策』(旬刊商事法務No.1752)など(両者とも共著)。

デイリー新潮編集部

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