「真の勝者はニデックでも牧野フライスでもなく…」 “異例の買収劇”の内幕と永守重信氏の次なる狙い
牧野フライスが仕掛けられたTOB(株式公開買い付け)は、ニデック側の撤回をもって終了。事前交渉のない異例の買収提案が波紋を呼んだが、その勝者はニデックでも防衛に成功した牧野フライスでもなく、“漁夫の利”を得た者がいて――。知られざる買収劇の内幕と、今もニデックを「代表取締役グローバルグループ代表」として牽引する永守重信氏の次なる狙いを探った。
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昨年12月27日、年の瀬に突如として始まった買収劇は、あっけない幕切れを迎えた。
牧野フライスが表明した対抗策の差し止めを求めたニデックだったが、東京地裁は今月7日、「却下」の判断を下した。すると翌日に同社は、
「本公開買付けを維持することは著しく経済合理性を欠くことになりかねない」
としてTOBを撤回したのだ。一見すると牧野フライス側の対抗策が功を奏したように思えるのだが、
「ニデックが発表した撤回理由は建前ではないでしょうか。『牧野が防衛に成功した』という見方も、実態とはかけ離れているように思います」
そう指摘するのは、株式会社IBコンサルティング代表取締役社長の鈴木賢一郎氏。敵対的買収からの企業防衛を専門とする立場から、今回の買収劇の裏側を読み解く。
高裁に抗告さえもせず
「今回地裁に認められた牧野フライス側の主張は、『もう1か月だけ時間をください』という程度のもの。それまでにホワイトナイト(友好的な買収者)を探しつつ、6月に開催予定の株主総会で意思確認をしたかったのでしょう。ニデック側はこれさえ飲めば、『株主に新株予約権を無償で割り当ててニデックの持ち株比率を下げる』という牧野側が表明していた対抗策はとられずに済む話だったのです。逆にいうと、安定株主比率が低く、また外国人の株主比率が高い牧野フライスとしては、この程度の手段しかとれなかったということだと思います。ニデックに高値で株を買ってもらえるなら株主としては願ってもない話なので、そもそも買収提案を根底から覆すような防衛策は株主が求めていなかったのです」
ゆえに1か月待つことさえ許容できなかったニデックのやり方は不可解で、
「工作機械事業を新たな収益の柱にしようと掲げていたニデックが、この程度のことで買収を断念するとは驚きました。高裁に即時抗告することさえもしませんでしたからね。ダイヤモンドオンラインでは『中国の競争法による審査が遅れていたことが影響したのでは』という報道もありましたが、いずれにしても、表向きの理由とは別の事情があっての撤回なのだと思われます」
とにかく短期決戦で決めたい永守氏の意向があったのか、あるいは牧野フライス側の抵抗が想像以上だったのか。“真意”はいまだ語られていない。
「今回のように事前交渉なく買収に踏み切れば、相手から抵抗があることも、時間がある程度かかることも想定できたはず。それにいくら法的に認められた手続きだとしても、12月27日というほとんどの日本企業が年内最終営業日だったタイミングで、突如としてTOBを表明したら、相手方の反感を買っても仕方ないように思います。企業同士のやりとりとはいえ、その裏には『人』がいることを認識していれば、このような顛末にはならなかったと思うのですが……」
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