「アイシテル」「それでも、生きてゆく」の系譜を継ぐ今期注目ドラマとは? 敬遠されがちな重苦しいテーマを「北川景子」が熱演

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 殺人事件の被害者家族と加害者家族。決して相いれない、それぞれの苦悩を描く作品は過去にもあった。「アイシテル」(2009年・日テレ)、「それでも、生きてゆく」(11年・フジ)、「それぞれの断崖」(19年・フジ)など。意欲作だが、重苦しさで敬遠されがちなテーマである。

 今回取り上げる作品は犯罪ではなく事故という設定。被害者の家族がやり場のない怒りをどう消化していくのか、興味があった。愛娘を失い、茫然自失、絶望、虚無を経て、狂気へ向かうヒロインを、北川景子が氷点下のまなざしで静謐に熱演している「あなたを奪ったその日から」の話をしよう。

 北川が演じるのは、調理師として保育園に勤める皆川紘海(ひろみ)。夫(高橋光臣)と3歳の娘(石原朱馬)と平穏な日々を送っていたが、娘の誕生日に悲劇が起きてしまう。アナフィラキシーショックで娘が急死。総菜店で買ったピザに、エビが混入していたことが分かる。アレルギー表示を怠った総菜店の社長・結城旭(大森南朋)は、アレルギーとなる食材は使っていないの一点張り。記者会見では非を認めるどころか、「家庭内事故の可能性も高く、親にも責任がある」というニュアンスの暴言まで放って大炎上。

 この日から、結城に対して憎悪と復讐心を募らせていく紘海。自宅を監視したり、結城の長女・梨々子(平祐奈)のSNSをチェックして、結城家の情報を入手、復讐の機会をうかがっていた。

 結城は世間から非難され、誹謗中傷も続き、総菜店は廃業に追い込まれたが、義理の実家が太いせいか、生活に支障はない。ただし、妻(鶴田真由)とは離婚、長女は反抗的で、次女を邪険にする。事故後、家庭が崩壊した、といってもいい。

 紘海も夫と離婚。結城を殺そうと出向くも実行できず。ところが、だ。偶然にも結城の次女・萌子(倉田瑛茉)が紘海の車に乗り込んでいたことから、誘拐を決行。幼い萌子を自分の娘・美海として育て始める紘海。「娘を失う」という同等の苦しみを結城に背負わせるも、それ以上の報復はせず。「目には目を、歯には歯を」のハンムラビ法典なのね。

 ま、いろいろと気になるところはあった。民事訴訟しなかったのかとか、逆に自分を追い込んでないかとか、ね。第3話では萌子の無戸籍をうまいことクリアして、すっかり鉄オタの女子中学生・美海になっとる。

 ということで、被害者家族だった紘海はすっかり犯罪者(略取・誘拐罪に公文書偽造罪、詐欺罪かな)に。

 憎しみに始まり、加害者側へ移行し、今後は追われる立場になるのかと思うと、目が離せない。紘海の味方になりそうな人物もいるし。

 執拗(しつよう)に食品事故の真相を追う週刊誌記者・東砂羽(仁村紗和)、結城家に恨みを抱く元家庭教師の玖村(阿部亮平)など。加害者家族の絆の脆さも好都合となりそう。

「許せない・罰したい・復讐したい」という被害者の感情を正当化できない状況に追い込むこのドラマ。沈鬱(ちんうつ)な北川と含みのある大森の、憎悪が向かう先が気になっちゃう。どう考えても手打ちはないなと思ってね。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2025年5月22日号掲載

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