愚策か、有効な奇襲作戦か…中日が「9回2死満塁」でセーフティバント 意外に成功例も多い「2死からのバント攻撃」

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日本シリーズ進出を決めた巨人・丸の値千金なバント安打

 2死からバントを成功させ、チームを日本シリーズに導いたのが、巨人・丸佳浩だ。

 2019年10月13日のクライマックスシリーズ・ファイナルステージ第4戦、阪神戦、5年ぶりの日本シリーズに王手をかけた巨人は、5回に岡本和真の同点ソロで1対1とすると、6回にも山本泰寛の二塁打を足場に2死三塁と一打勝ち越しのチャンスを作る。

 次打者・丸は、シーズンでは27本塁打を記録も、阪神の先発・西勇輝には12打数2安打に抑えられていた。チームの勝利がかかった大事な場面で相性の悪い投手と対決することになった丸は「一番確率の高いものをといつも心掛けている。打席に入ってから決めた」と、西の初球モーションの途中で、突然バットを持ち替えると、意表をつくバント。打球は三塁側に転がった。

 西は素早く打球を処理し、一塁に送球。タイミング的にはアウトと思われたが、想定外の事態に動揺したのか、一塁送球が左にそれてしまう。ファースト・マルテが慌ててベースから足を離して捕球する間に丸が一塁を駆け抜け、三塁走者・山本が勝ち越しのホームを踏んだ。

 日本シリーズ進出を決める値千金のバント安打に、原辰徳監督も「サインではありません。丸自身が状況の中で『フォア・ザ・チーム』のプレーだった。ベンチもビックリした」と驚きながら絶賛していた。

 冒頭で紹介した中日の作戦だが、ネット上では嘲笑する声も多く出ていたが、こうして過去の事例を踏まえると、必ずしも“愚策”とは言えない一面があることは確かだ。実際、巨人時代の山本は、丸のセーフティバントを目の前で見ており、それがどこかで頭を過ったのかもしれない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新著作は『死闘!激突!東都大学野球』(ビジネス社)。

デイリー新潮編集部

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