「トワイライト・ウォリアーズ」で注目の“オールド香港” 400年の歴史を数える“不法占拠”の村は今が訪問のラストチャンス

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実は閉業していなかった名物店

 路地の中ほどにある「榮華冰室」(ウィンワービンサッ)は、集落が栄えていた1962年に開店した。

「『冰室』とは、家庭用の冷蔵庫や冷房機器が高根の花だった50~60年代、冷たい飲み物やアイスクリーム、軽食を提供した店の名称です。ここ数年は『冰室』を名乗る新しい店もありますが、多くはレトロ感の演出が目的ですね」とAさん。

「榮華冰室」は実際に「冰室」として開店し、営業を続ける貴重な一軒だ。海外にもファンが多く、2024年10月に閉店のニュースが流れた際は日本でも悲鳴が上がった。現在はGoogleマップでも「閉業」と表示されるが、実は営業を再開している。

「首を悪くして手術を受けたから店を閉じていたんだよ。3~4カ月かな。ずっとうつむいて調理をするから、職業病でね。治ってすぐに営業を再開したんだ。日本から来たの? 5~6年前はうちにたくさん日本の記者が来て、この特別な場所の良い思い出を作ってくれた。今でも覚えてる」

 店主の歐陽偉鏡さんはそう言って、日本から届いた掲載誌を披露してくれた。壁に貼られた多数の写真にも、見覚えのある香港芸能人や著名人の顏。古ぼけた壁、手書きのメニュー板、使い込まれた木製の椅子などすべてが年代物で、とても2025年とは思えない空気に満ちている。

店は「できなくなるまで続ける」

「榮華冰室」を開店したのは、1940年代に広東省から出稼ぎにきた歐陽さんの父親。北の観塘工業区が開発された際、工事作業員に飲み物を売って開店資金を稼いだ。やがて、歐陽さんも香港に来て店を手伝い、父親が広東省に戻った後も妻を呼び寄せて営業を続けた。

 歐陽さんは現在76歳。最後の住民は今年6月までに立ち退きと報じられているが、2025年5月現在、歐陽さんのもとには取り壊しに関する正式な通知が届いていないという。

「今年の末頃までしか営業できないかもしれないけど、具体的な取り壊しの時期はわからない。できる限り頑張るよ(笑)」

 茶果嶺村は過去に何度か再開発の波に飲まれかけた。公式の年表によれば、1959年と1999年の計画は中止となったが、80~90年代には東区海底トンネルなどの建設や、貯油施設と採石所の閉鎖により人口減が始まる。2012年に幹線道路のトンネル建設予定地となった際は、住民の反対運動で窮地をしのいだ。命運が尽きたのは、2019年に発表された公営住宅の建設計画。立ち退きと一部の取り壊しは2023年に始まった。

 九龍城砦は“観光資源”としてまさかの復活を果たした。映画の撮影で使用されたセットの展示は大盛況で、今後は九龍城砦跡地での展示となる。茶果嶺村では一部の建物が保存される予定だが、壊してからでは遅いという事実は九龍城砦が立証済みだ。

 とはいえ、現在の茶果嶺村をそのまま残すことは、老朽化の面からもかなり厳しい。九龍城砦ほどの引きはないため、観光地化も困難だろう。それでも何を壊し、何を残すべきなのか。そして、変化を経ても残るものとは。「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」が残す切ない余韻を、ここではリアルに感じることができる。

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