“カスハラ問題化”で客は沈黙するしかないのか… サービス低下を実感した3つの出来事

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なにを聞いても「申しわけございません」

 出てきた係員に「なぜこんなところに座らされるのですか?」と聞くと、「今日は窓口が混んでいますから」。しかし、予約をしてあるのになぜか。「私の予約は入っていますか」と尋ねると、「入っています」。では、「Mさんに予約したのですが、Mさんはどうしたのですか?」と聞くと「不在です」という。以下、こんなやりとりだった。

 私「Mさんはどうして不在なのですか?」。係員「申しわけございません」。私「謝ってほしいのではなく、なぜ不在なのか聞いているのです」。係員「申しわけございません」。続いて係員が「いつ予約したのですか?」と聞いてきた。私「2週間前です」。係員「Mに予約したのですか?」。私「そうです。それなのに、なぜ不在なのですか?」。係員「申しわけございません」。私「“今日は混んでいますから”って、なんのための予約ですか?」。係員「申しわけございません」。

 ここまでの対話で、M氏が不在の理由も、予約してあるのに窓口にさえ通してもらえない理由も、一切わからない。そうしているあいだにもドアが開いては書類が飛ぶ。やりとりの再現を続ける。

 ふたたび私が「これだったら、なんのための予約かわかりませんよね」というと、係員もふたたび「申しわけございません」。私「普通は予約していたのに担当がいないという不備があれば、“今日はMの都合が悪くなったので私が承ります”といいますよね?」。係員「申しわけございません」。

 1週間前には、予約をしていなかったという理由で帰されたのだが、このように予約の有無が意味をなさないなら、1週間前に手続きさせてくれてもよかったのではないか。1週間前には予約の有無が厳密に問われ、予約がある1週間後には個人情報にかかわる重要な書類さえ次々と飛ぶ席に放置され、担当不在の理由さえ教えてもらえない。

 係員に対して、もっと強く出てもよかったのかもしれない。あるいは、支店長に直接抗議すべき案件だったようにも思う。しかし、それを躊躇ったのは、郵便局の入口に「カスハラとなる行為があったと当グループが判断した場合、対応をお断りさせていただきます」と書かれたポスターが貼ってあったからだ。

 強い言葉で苦情を述べていたら、私はカスハラと判断され、対応を断られたのだろうか。しかし、そもそも私は事実上、係員から一方的に対応を断られていたのである。私にいわせれば、係員の応対は私に対するハラスメントにほかならないが、それに対して苦情をいう権利は、もはや客には認められていないということなのだろうか。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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