8歳児が恐怖で白髪に…【現地取材】3年2カ月の「ウクライナ戦争」が住民に残した“深すぎる傷跡”

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1000万人が精神疾患のリスク

 余談だが、帰国後、私は選抜高校野球で甲子園球場内に鳴るサイレンの音が嫌になった。不意にテレビから流れる「ウ~ウ~ウ~…」という音に、体がびくりと反応してしまう自分がいた。それほどまでに深く染みついてしまったのだ。

 キーウに住む45歳の女性は「空襲警報が鳴れば、建物から出て防空壕に避難しなければならない。多くの人々が精神的なストレスを抱え、子供たちは悪夢を見たり、寝ている間に叫んだりすることもある。もう耐えられない」と語る。

 実際、多くの国際機関や組織がウクライナ国内や避難民を対象に行った調査で、ウクライナ国民が深刻なストレスを抱えていることが明らかになっている。

 国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」によると、子供たちの43%が不安や恐怖、気分の不安定さ、集中力の低下といったPTSDの症状を抱えており、ロシアとの国境に近く、常に空襲の脅威に晒されている東部ハリコフでは、極度のストレスから8歳から16歳までの少なくとも5人が白髪になっていることが確認されている。

 別の国際機関の調査によれば、ウクライナの人口3700万人のうち、1000万人近くが戦争の影響で精神疾患を発症するリスクがあるか、またはすでに精神疾患を抱えていると推定されている。

【後編】では、この戦争を指揮するゼレンスキー大統領について、ウクライナ国民がどのような感情を抱いているのか、テレビや新聞が報じない本音を詳報している。

佐々木正明(ささき・まさあき)
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授。岩手県一関市生まれ。大阪外国語大学ロシア語学科(現・大阪大学)卒業後、産経新聞社入社。モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長を経て、運動部次長、社会部次長などを歴任。2021年より現職。8年前はウクライナのマイダン革命やロシアによるウクライナ併合を現地で取材した。専門分野はロシア・旧ソ連諸国情勢、国際情勢に加え、オリンピック・パラリンピック、捕鯨問題などにも詳しい。単著に『シー・シェパードの正体』、『環境テロリストの正体』、『「動物の権利」運動の正体』など。

デイリー新潮編集部

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