8歳児が恐怖で白髪に…【現地取材】3年2カ月の「ウクライナ戦争」が住民に残した“深すぎる傷跡”
防空壕に避難しない人も
市民は各自のスマートフォンに空襲警報アプリをインストールしている。私も「Alerts」というアプリを自分のスマホに入れ、いざという時に備えた。アプリにはウクライナの地図が表示され、どの地域がどのような攻撃を受けているかがリアルタイムでわかる。
ロシア領土内で爆撃機が離陸しただけでも、レーダーはそれを探知する。ミサイルが発射されれば、どこからどのような経路で襲来するかも詳細に通知される。
「Alerts」は津波警報や地震速報に似ていると言えば理解しやすいだろうか。「Alerts」を見れば、ロシア軍がどの方向からどのような編隊で都市への空爆を仕掛けているのかがわかる。ドローンの襲来も全てではないが網羅されており、何分後に到達するかも予測できる。ウクライナ軍が迎撃に成功すれば、その情報も通知される。
つまり、深夜にサイレンが鳴るたびに、アプリを見てキーウの状況を確認することが習慣となった。これを市民は連日行っているのだ。非日常が日常となり、防空壕に避難しない人もいる。そのまま避難しなければ死亡する確率が高まるにもかかわらず、感覚が麻痺してしまっている。
戦時下で1200日
3月7日未明から早朝にかけて、ロシア軍は大規模なミサイル攻撃を実施した。警報アプリ「Alerts」をもとにこの日の出来事を振り返る。
【03:30】静寂を破るように3分間の空襲サイレンが鳴り響いた。私はベッドから飛び起きた。第一報は、ロシア軍が東部基地から離陸したTu-95戦略爆撃機から巡航ミサイル「カリブル」をウクライナ領土内で発射したというものだった。まだどこに飛来するか不明なため、ウクライナ全土に避難指示が出された。
【03:50】東部地域の、エネルギー・ガス関連のインフラ設備で「爆発音」が確認されたという情報が入る。
【04:01】ウクライナ国防省が「ミサイル発射は繰り返される可能性がある」と警告を発した。
【04:03】「全土でドローン攻撃」という情報が流れる。後に判明したことだが、この日、ロシア軍はおとりのドローンも使用して、ウクライナ軍の迎撃態勢を混乱させようとしたようだ。
【04:16】「ミサイルがフメリニツキー州の空域に進入」。迎撃できず、一部が着弾した可能性が示唆された。
【04:20】この朝、キーウで2度目の空襲警報が鳴った。私は危険を感じ、地下シェルターへ避難した。
【05:03】「西部テルノーピル州で爆発音」。
【05:40】「ロシア軍のMiG-31K戦闘機の離陸を確認」。攻撃は第一波で終わると考えられていたが、第二波が始まった。
【05:43】「敵はミサイル攻撃を継続中」。
この頃、キーウは夜明けを迎えた。SNSでは被害状況が相次いで報告された。
結局、ホテルの近くへの着弾はなかったようだが、キーウ近郊では激しい迎撃戦が繰り広げられたようだ。ウクライナ空軍によると、ロシア軍はミサイル67発とドローン194機で攻撃を行い、そのうち34発と100機を撃墜した。つまり、ミサイル33発とドローン94機は撃ち落とすことができず、どこかの地域に着弾したことになる。
ウクライナでは、戦時下の非日常が日常となっている。このような状況が1200日近くも続いている。
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