「『巨人の星』みたいな熱血根性はいらないんです」 体操五輪代表「田中3きょうだい」を伸ばした父の“褒めテクニック”

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高い目標を掲げて挑戦する楽しさを

 が、本格的な競技者として育てるには、やはりもう1ランク上の指導が必要になる。その選択を迫られたのは、和仁が4年生になった頃だった。

「子供たちが寝静まってから、嫁が唐突に『あの子ら、モノになりそう?』って聞いてきたんです。このまま練習に時間をかけても競技者として見込みがなければ無駄になる、と危惧したんでしょう。僕は咄嗟に『大丈夫』と答えましたが、逆にその言葉で覚悟が決まった」

 そして子供たちには、遊びとしての楽しさに加え、目標を持つ楽しさも与えた。全日本ジュニア選手権で優勝して日本一になろう、と持ちかけたのだ。実際、予供たちはより生き生きと練習を続け、和仁は6年生で本当に優勝した。

3きょうだいは「燃え尽きなかった」

 その後、練習は高校生になると放課後の6時間ほどに増えた。帰りは11時になるので、移動の車の中で夕食をとれるように母親が準備していた。夜、自宅に家族5人で帰り着き、車から通学カバンと茶碗、お箸を持って子供たちが降りる場面を見た友人から、章二さんは『お前とこ異常やな』と笑われたこともある。

「ただ、家の中では体操の話はまったくしない。練習だって、やりたくなければ来なくていいと言い続けてきた。でも、子供らはやっぱりサボらない。それは彼らが根本的に『体操が好きだから』と明確に思っているからでしょう」

 スポーツライターの小川勝氏は、「3人は他の選手と違い、子供の頃に肉体的にも精神的にも徹底的に追い詰められていないので、燃え尽きていない。まだここにきて伸びているんです。やはりお父さんが3人の自然な成長をじっと我慢して待てる人だったんだろうなと思います。ああしろこうしろと口出しをしなかったからここまで来られたんでしょう」と評した。

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 五輪本番での3きょうだいはそれぞれ健闘し、和仁さんと佑典さんが加わった男子団体は銀を獲得。佑典さんは4年後のリオ五輪で男子団体の金にも輝いた。そして現在の3きょうだいは、田中体操クラブで子供たちの指導にあたっている。

 そんな3きょうだいの基礎となったのは「洞察力」だった。【第1回】「親が無理やりは絶対に長続きしません」…体操五輪代表「田中3きょうだい」の父が語った“子供にスポーツを続けてもらう秘訣”では、その重要性や伸ばし方の一例が語られている。

デイリー新潮編集部

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