ブレイクから8年 「ピコ太郎」はなぜ世界を席巻したのか 古坂大魔王が世界を回って感じた「笑いを受け止める文化の違い」
海外で笑いをとるには「音楽」が重要だった
――この間、どのくらい世界を回ってきたのですか。
途中、コロナ禍で途絶えてしまいましたが、4年くらいかけて15カ国、19地域を回りました。今思い返しても、最初の1年は地獄のようなスケジュールでした。毎週水曜日に東京でラジオ番組の生放送があったのですが、終わったら即空港に行って飛び立ち、また戻ってきてはラジオという繰り返し。アジアに行く時は大体2カ国回ることも多く、シンガポールの日帰り出張までありました。
あまりの忙しさにどこで何語で話を聞かれていたか記憶が曖昧になるくらい。台湾に行ったらアジアから数十社のメディアが押し寄せていて、数時間も延々と取材対応したこともありました。おかげさまで英語力は自然と身につき、多少は喋れるようになりました。
――元々海外で売り出そうという考えはあったのですか。
芸人をやりつつバンドを組んで地下でずっとやっていた頃、ネット上に自分の音楽をアップするとすぐに海外からいい反響が届くということが度々あったので、音楽さえ絡めば海外でも通用するという感覚は持っていました。ただ、海外で一発当てようと思ってあの曲をプロデュースしたわけではありません。自分が面白いと思うものを作ったら、たまたま当たってしまったというのが正直なところです。
当たってから、やはり音楽が重要なファクターになっていたことがわかってきました。多言語多民族から成る海外という舞台では、言語だけで笑わす笑いはほぼ存在しません。代わりに音楽が共通の言語になってくるのです。イギリスのオーディション番組でブレイクした安村くん(「とにかく明るい安村」)の「I'm wearing!」の芸も、音楽のテンポの良さがあっての笑いでもありますよね。
子供の方が「本物」を見抜く力を持っている
海外だと「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」と言った後に、曲が流れて踊るところでみんなが笑ってくれます。あのリズムに対してあの踊りが面白いと。ファニーなのか、インタレスティングなのかよくわからないけど、ハッピーだとみんなウケてくれる。
ただ、それは日本の大人が求める笑いのツボとは違い、「オチはないの?」となってしまう。日本だと言語に笑いを求める傾向があって、リズムネタよりも大喜利やフリートークで笑わせる方が高尚だという価値観があるんだと思います。けれど、それは80億人には通用しない笑い。もちろん、どっちがすごいとか偉いとかいう話ではありません。
――PPAPは日本では子供に大人気でした。
おかげさまでPPAPがヒットした後、NHK「みんなのうた」やEテレの「いないいないばあっ!」といった子供向け番組で曲を提供させていただきました。そしてこの度、NHK「みんなのうた」のために書き下ろした「チャンチャンコ~KANREKI60~」が、6月から7月まで放送される事が決まりました。還暦という人生の節目をテーマにしたお祝いソングです。
ただ、この曲は子供に向けて作った作品ではありません。逆に子供向けのものを作ろうとすると大抵失敗するんです。子供は言語能力がない分、感性に関しては大人以上に発達している。大人よりも「本物」を見抜く力を持っている気がします。
昨年、日本人ヒップホップユニットCreepy Nutsが出した「Bling-Bang-Bang-Born」という曲が子供の間でも流行しましたが、大人でも歌いづらい難しい曲なのに子供たちが真似して歌っているでしょう。Adoの「うっせぇわ」も同じ。子供は素直なので、すぐに感性で面白いと感じたものを真似する傾向がある。
一方、大人は言語からものを捉えようとするから、子供に流行していると聞いた時点で受け入れようとしないところがある。PPAPが日本の大人たちを素通りして、海外と子供たちに受けた理由は同じ理屈で説明できるんです。
後編【「子供は次世代の地球の運転手です」イクメン・古坂大魔王が語る男性も育児に参加した方が「絶対得する理由」】では、古坂がPPAPを通して世界中の子供達と触れ合ってきた経験や、7年間続けてきた小児がん支援、2人の娘の育児経験などについて語っている。










