「DINKSなのに計画外の妊娠」で7000万円ペアローンに沈んだ世帯年収1000万円超夫婦…専門家が語る落とし穴とは

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 まだまだ落ち着く気配が見えないマンション相場。特に顕著なのが東京23区の新築マンションで、「不動産経済研究所」の発表によれば、2024年度の平均価格は1億1632万円と前年度からさらに11.2%の伸び。もはや「普通のサラリーマン」が単独で購入するのは難しく、代わりに急速に増加しているのが夫婦2人で組む「ペアローン」だ。しかし、住宅コンサルタントの寺岡孝氏は「ペアローンのメリットばかりが注目され危うさを感じる」と警鐘を鳴らす。実際に相談を受けた夫婦の事例をもとにした、寺岡氏による解説をお届けする。

(前後編の前編)

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「家を持てば、幸せになれると思っていた」

「マイホームを買えば、家族としての土台ができる。そう思っていたんです」

 これは、私のもとに相談に来られた30代後半の共働き夫婦のご主人の言葉です。

 ふたりは結婚5年目。世帯年収は1000万円を超え、新築マンションを“ペアローン”で購入しました。夫婦それぞれが住宅ローンを契約し、個々の借入金を合算することで、希望の物件を購入することができたのです。

ところが、順風満帆に見えた生活は、たった2年で綻びが……。

 家計の分担、仕事の忙しさ、すれ違う会話。気づけば「離婚」の二文字が現実味を帯び始めていました。

 そしてふたりは気づいたのです。「この家があるから、離婚できないかもしれない」という現実に──。

ペアローンの仕組みと“見えにくい重荷”

 ペアローンとは、1つの物件に対して夫婦2人がそれぞれローン契約者となり、ローンを組む制度です。

 夫1人で住宅ローンを組む場合は、借入額は基本的に1人の収入をもとに審査されますが、ペアローンでは夫と妻の2人の収入を個別に審査して、それぞれが別々にローンを組むことで、合計の借入可能額を大きくすることができます。

 たとえば、夫婦それぞれが年収400万円の場合、夫単独なら借入限度は3000万円程度だったものが、夫婦でペアローンを組むことで5000万円以上の物件も視野に入れることが可能となるのです。

 さらに、ペアローンでは双方がローン契約者であるため、住宅ローン控除(年末ローン残高×0.7%)もそれぞれに適用できます。単独債務では難しい高額物件に手が届くうえ、ローン控除の節税メリットを二重に得られるため、購入当初のメリットは大きいと言えます。

 ただし、デメリットも明確です。

 たとえば、どちらかが病気や転職、育児休業などで購入時よりも収入が減ると、実質的に夫婦どちらかがもう片方のローン返済をカバーする必要が出てきます。ここに、ペアローンの見えにくい「心理的・経済的負担」があるのです。

 私のところにご相談に来られたB夫妻は、夫婦ともに30代でペアローンを組み、都内に7000万円のマンションを購入しました。子を持たず夫婦それぞれがバリバリ働くという、いわゆる“DINKS”です。

 ところが2年後、妻が予期せぬ妊娠で仕事を休職することになり、家計は急激に圧迫されることに。さすがに夫の収入で2人分のローンを払いきれず、最終的には物件を手放しましたが、売却額がローン残高に届かず、数百万円の赤字を背負うことに。家庭内にもいつしか不穏な空気が漂いはじめ、離婚協議に入るという事態に陥りました。

 このように、ペアローンはメリットも大きい反面、生活や夫婦関係に変化があった際の柔軟性が低くなる点は理解しておかなければなりません。

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