チャキチャキの下町娘から妖艶な人妻まで…日本映画史のレジェンド「若尾文子」映画祭が開催! 見どころを“あやや”ファンのジャーナリストが熱く解説

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出演本数160本!

 この4月末から7月にかけて、都内2か所の映画館で、“3タイプ”の「若尾文子映画祭」が、開催される。これが前代未聞の特集上映とあって、ファンの間で話題になっている。

「若尾文子さんといえば、日本映画史上のレジェンドです。出演本数は約160本。今回は、そのうちの62本、実に4割近くが上映されるのです。女優をフィーチャーした特集上映はよくありますが、ひとりの女優で、これだけの規模の映画祭は空前絶後だと思います」(ベテラン映画ジャーナリスト)

 その“3タイプ”の特集上映とは――。

 まず、4月27日~6月14日に、東京・杉並の名画座「ラピュタ阿佐ヶ谷」で、《若尾文子映画祭 大映〈プログラムピクチャー〉の職人監督と》。大映の“職人監督”による名作「26本」が上映される。

 次が、6月6日~19日に、東京・有楽町の「角川シネマ有楽町」で、《若尾文子映画祭 Side.A》。「爽やかな女」を演じた、明るい初期作品を中心に「18本」上映。

 そして、6月20日~7月3日に、おなじ「角川シネマ有楽町」で、《若尾文子映画祭 Side.B》。こちらは「運命の女」を演じた中期以降の渋めの作品を中心に「18本」上映。

 若尾文子とともに、“大映3大女優”と呼ばれた京マチ子、山本富士子でさえ、出演作は、ともに100本前後である。若尾の「約160本」が、いかにとんでもない数字か、おわかりいただけると思う。「62本」もの作品が上映されても、まだ4割にも満たないのだ。

「若尾さんは、1951年、大映にニューフェイス第5期生として入社します。のちに日活に移籍する南田洋子と同期です。以後、数本の他社出演はありますが、1971年の倒産まで、移籍することなく、ずっと大映専属でした。その間、1年に10~15本もの映画に出演しつづけています」(前出・ジャーナリスト)

 要するに、ほぼ毎月1本、出演作が劇場公開されていたのである。ご本人も、あるインタビューで、こう語っている。

「ほとんど撮影所と家の往復しか知らないわけで。(略)なにしろ一週間くらいずっと寝ないで、朝もあっち行って、夜もあっち行って、(略)その当時は、撮影のない時ってないんじゃない。だってね、終ったら、もう明くる日に次ですもの」(四方田犬彦・斉藤綾子編著『映画女優 若尾文子』みすず書房刊より)

 その大映は、倒産後、徳間書店による経営再建を経て、最終的に角川書店に“吸収”された。

「よって旧大映映画は、いまは〈KADOKAWA映画〉なのです。そのKADOKAWAが、膨大な数の、むかしの大映作品を、とても大事に扱ってくれているんです。古いフィルムは、経費と手間をかけてデジタル化するなど、次世代への継承もおこなっています。そのため、大量の若尾作品も逸失することなくきちんと残っており、このような大規模な特集上映が可能なのです」(同)

 さっそく、今回の映画祭での“見どころ”を、聞いてみたのだが……。

一家を支える下町娘から妖艶な人妻まで

「この62本から、数本を選んで紹介しろというのですか? そんなこと、できるわけないでしょう。すべてが日本映画史に残る〈あやや〉の名作・佳作なんですから」

 と、映画ジャーナリスト氏に怒られてしまった。ちなみに〈あやや〉とは、長年の若尾文子マニアである氏が、勝手に呼んでいる“愛称”である。ほかに〈キョンキョン〉といえば香川京子、〈ミキティ〉は杉本美樹なんだそうである。

 そんなことはどうでもいいが、とにかくこれでは記事にならない。「個人的な好みでいいですから」と頭を下げて、選んでもらった。まずは、ラピュタ阿佐ヶ谷の“あやや祭り”から、お願いします。

「仕方ないですね……。ラピュタは〈プログラムピクチャー〉(PP)特集です。日本映画全盛期は、1~2週おきに新作2本立ての封切り興行でした。この年間スケジュールを確実に埋めるために、続々と生産された作品群を〈PP〉と呼びます。若尾さんは、この〈PP〉の名作に、大量に出演しているのです」

 今回のラピュタの〈PP〉は、上映作の“並べ方”に味わいがあるのだという。

「『東京おにぎり娘』(田中重雄監督、1961)で幕をあけ、『やっちゃ場の女』(木村恵吾監督、1962で締める。ラピュタは、わかっているなあと、うれしくなりました」

 どういうことか?

「この2作は、一種の“姉妹編”なんです。前者は新橋烏森の洋服仕立て屋の娘が、おにぎり屋を開業する話。後者は、いまはなき築地青果市場の仲買人の娘が、一家を支える話。ともに、縁談や恋愛がからむラブコメで、若尾さんのチャキチャキした下町娘ぶりが、とても気持ちいい佳作です。そんな2作を最初と最後に、サンドイッチのように配置する。ラピュタの“采配”の妙に感心しました」

 なるほど。そのほか、注目作は?

「若尾さんの“コスプレ”的な魅力を愉しみたいなら――まず、なんといってもたまらないのは、京都の尼僧に扮する『処女が見た』(三隈研次監督、1966)でしょう。白衣の美人女医姿を観たいなら『温泉女医』(木村恵吾監督、1964)。大阪キタのバーの和服マダムだったら『女が愛して憎むとき』(富本壮吉監督、1963)。ほかに、四谷荒木町の花街で生きる盲目のあんま師を演じた作品(島耕二監督、1965)なども見応えがあります。花街のセットが見事で、大映の映画美術の底力を堪能できます」

 文豪原作の名作もある。

「森鴎外原作『雁』(池広一夫監督、1966)では、高利貸しのお妾さん役。1953年の高峰秀子版と観比べるのも一興でしょう。谷崎潤一郎原作『瘋癲老人日記』(木村恵吾監督、1962)では、不能の義父を翻弄する妖しい嫁。三島由紀夫原作『獣の戯れ』(富本壮吉監督、1964)では半身不随の夫を支える妻の役。そこに、彼女を慕う青年が加わり、3人同衾生活になる、異常な設定の話です」

 また、若尾文子はミステリ小説のファンでもある。

「それだけに、海外ミステリの翻案ものに力をいれています。ハロルド・Q・マスル原作『わたしを深く埋めて』(井上梅次監督、1963)では、奇妙な殺人事件にからむ妖艶な謎の人妻。『夜の罠』(富本壮吉監督、1967)は、若尾さんの愛読書でもあったコーネル・ウールリッチの『黒い天使』が原作です。夫の殺人容疑を晴らすため、美貌の妻が単身、真犯人探しに挑むサスペンスです。途中、暗黒組織に捕縛され、“責め苦”にあうシーンが見どころです」

 一家を支える健気な下町娘から、妖艶な人妻まで、たいへんな幅の広さである。

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