中園ミホ氏は「あんぱん」ヒロインをなぜ「教師」にしたのか 戦前も戦後も地獄をみる「逆転する正義」

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緻密な脚本

 ここまでの「あんぱん」は中園氏らしい緻密で計算され尽くしたストーリーが続いた。一例は第11回と12回にパン食い競争を採り入れたところ。

 時代は第10回までの1927年から1935年に移った。のぶは子役の永瀬ゆずな(9)から今田に交代した。

 のぶは8歳の小学校2年生から16歳の高等女学校5年生になっていた。嵩役も木村優来(9)から北村になり、旧制中学5年生になった。嵩の2歳下の弟・千尋は平山正剛(6)から中沢元紀(25)に変わった。

 元いじめっ子の田川岩男も笹本旭(10)から濱尾ノリタカ(25)に。朝ドラの子役編から青年編への移行は説明に時間がかかり、そう簡単ではないが、パン食い競争を導入したことにより、一辺に人物紹介が出来た。

 パン食い競争の1等賞品をラジオにしたのもよく考えられていた。吉田鋼太郎(66)扮するのぶの祖父で、「朝田石材店」の主人・朝田釜次が欲しがっていたが、細田佳央太(23)が演じる石材店の職人・原豪はビリとなってしまい、獲れなかった。

 だが、繰り上げ1位となった千尋が譲ってくれた。ラジオは今後のストーリーにどうしても必要な小道具なのだ。徐々に戦争に向かう時代を表さなくてはならない。

 朝田家にラジオがやってきたのは1936年だった第13回。ラジオから流れてきたのはこの年開催されたドイツのベルリン五輪の国内予選である。

 ドイツのポーランド侵攻によって第2次世界大戦が始まるのは3年後の1939年。この時代はまだ平和だった。それが観る側に自然と伝わってきた。

 嵩と千尋は共に松嶋菜々子(51)が演じる母親の柳井登美子に捨てられた。しかし、兄弟の登美子に対する思いには差異が大きい。嵩は登美子をどこかで愛しているが、千尋は憎んでいる。

 竹野内豊(54)が演じる伯父で医師の柳井寛に千尋のほうが先に預けられたからだろう。千尋のほうが自分は捨てられたという思いが強い。

 嵩にはいまだ高知訛りがないが、千尋の言葉はすっかり高知の人間だ。早く登美子のことを忘れたいのも理由だろう。

 一方、嵩は登美子にどんなに裏切られようが、「以前ほど笑わなくなった」と心配している。

 登美子はよく紫色の着物を着ている。アンパンマンの仇役・ばいきんまんのシンボルカラーだ。登美子の本質を表しているのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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