「子どもの姓」を決めないと結婚できない? 「選択的夫婦別姓」立憲の法案が“憲法違反”と指摘される理由とは
選択的夫婦別姓制度導入のための民法改正案を今国会(6月22日)に提出するとしている立憲民主党が4月8日、別姓夫婦に生まれた子どもの姓をいつ決めるかについて、これまでの「出生時」から「婚姻時」に変更する法案の概要を決定した。これは1996(平成8)年に法務省の法制審議会が選択的夫婦別姓導入を打ち出した民法改正法案要綱に沿ったもので、夫婦が結婚する際に子どもの姓を決めることで「兄弟姉妹の姓を統一」できるというソフトなイメージを強調する狙いだ。だが、子どもを欲しない夫婦や子どもを産めない女性にも「子どもの姓」を強制することになるほか、「子どもの姓を決めないと婚姻届けが受理されない」という欠陥を抱える。同じ別姓推進派でも日弁連(日本弁護士連合会)はこうした考え方に明確に反対しており、「婚姻は両性の合意のみに基づく」とする憲法24条に違反するとの指摘もある。【椎谷哲夫/皇學館大学特別招聘教授・ジャーナリスト】
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なぜ立憲は「子どもの姓の決め方」を変更したのか
現行の夫婦同姓であれば、生まれた子どもは自動的に両親の姓(家族の姓)に決まるが、夫婦別姓の場合は当然ながら、父の姓にするか母の姓にするかをどこかの時点で選ばなくてはならない。問題はその姓を「いつ決めるか」だ。
立憲は2022(令和4)年に共産党などと国会に提出した議員立法の民法改正法案で、「子どもが生まれた時に、その都度、夫婦で協議して決める」としており、今回もこれを踏襲する方向で法案提出の準備を進めていたと見られていた。
しかし、選択的夫婦別姓の賛否についての議論が深まるにつれ、別姓慎重派を中心に、親子が別姓になるばかりか子どもの姓までもがバラバラになって兄弟姉妹の一体感が失われることへの問題点が指摘された。さらに批判を受けたのが「夫婦の協議が不調、または不能の場合には、家庭裁判所に委ねる」としたことだった。これについては「離婚した夫婦のどちらに子どもの親権を持たせるかならともかく、子どもの姓を決める基準などないので、裁判官は頭を抱えてしまう」などという疑問が噴出した。
立憲の法案は議員立法だから、政府による「閣法」とは異なり、国会の審議では提案した議員が質問に答えなければならない。このため今国会が始まった直後から、党内では「このままでは国会での追及に耐えられる自信がない」との声が漏れ聞こえていた。
立憲が決めた「子の姓の統一」は「家族の一体感」のためか
立憲民主党は今回、法制審議会の法律案要綱に沿って「子どもの姓を統一する」と決めたが、実は法制審議会はその要綱を答申する前年の1995(平成7)年に「婚姻制度の見直しに関する中間報告」をまとめている。
これによると、「子相互間の氏が異なる」ことを認めない理由の一つとして「兄弟姉妹間の氏を統一することが家族の一体感を確保する上で望ましく、国民の意識にも沿う」とする考えを挙げている。「家族の一体感」という表記をしているのだ。そうであるならば、なぜ、ここで「親子の姓の統一」を主張する意見が出なかったのか。答えは簡単である。選択的夫婦別姓自体を否定することになるからだ。
この矛盾を繕うためなのか、次のような不思議な理由を挙げている。「家族には共通の氏が必要であるが、夫婦間で子が統一的に称する氏の定めをすることとすれば、それを家族の共通の氏の定めとみることができる」というのだ。夫婦が別姓であっても、その夫婦が話し合って、「統一した子の姓」を決めるのだから、それは「家族の共通の姓だ」というのである。何度読んでも筆者には理解できない。
そこで、立憲にも敢て同じ疑問をぶつけてみたい。法制審議会の言う「家族の一体感」を確保するために子ども姓を統一するのであれば、親子の姓も統一するべきではないのか。いったい、立憲は何のために「子どもの姓を統一」するのか。
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