僕を“おにいちゃん”と呼ぶ9歳年下のカノジョ…「そのうち捨てられるのでは」 アラフォー男性が抱き始めた束縛願望
「自分は見捨てられるかもしれない」
愛実さんは「人間の心理を知りたい」と言い、大学の受験勉強を本気で始めた。喫茶店のシフトを変えてもらい、予備校にも通うようになった。
「ある日、『今度の週末、一緒に実家に行ってくれない?』と言われました。親に紹介したい、と。なんの準備もなく東京郊外の愛実の実家へ行くと、ご両親が歓待してくれました。愛実のお姉さんは出張中で来られないということでしたが、『この子のことはずっと心配していたけど、晶一さんのおかげで生きる気力がわいたなんて言うんですよ』とおかあさんは笑顔を絶やさなかった。愛実が本気で大学に行くと言い出したのがうれしくてと、おとうさんも笑顔でした。こんないい両親がいていいなとちょっと羨ましかった。僕自身は小学生のときに父を亡くして、母とふたりだったから。その母も僕が高校生のときに病気で亡くなり、家族の縁は薄いんです。親戚が学費を出してくれたので大学に行くことができたのはありがたかった。思わずそんな身の上話もしてしまいました」
結婚の話は出なかったが、この両親と親しくしていきたいという気持ちが晶一さんの心の中で強くなった。それを機に、一緒に住もうと愛実さんに言った。結婚という形にまだ乗り切れないという愛実さんに「一緒にいたいだけ。愛実は自分の好きなように生活していいから」と説得した。好きだから一緒にいたいのはもちろんだが、この先、もし彼女が大学生になったら自分は見捨てられるかもしれないという気持ちもよぎった。だから一緒に住むという既成事実がほしかった。
愛実さんは努力を重ねて、28歳で大学生になった。晶一さんは37歳。愛実さんから「パパ」と呼ばれたので、それだけはやめてくれと頼んだ。彼女は「おにいちゃん」と呼ぶようになった。
この生活は何なのか…
同居し始めたころは、確かに「男女」の関係はあった。男のところを渡り歩いている時期もあったはずの愛実さんだが、性にはまったく慣れていなかったのが不思議でさえあった。好きだから触れたい、ふたりでもっとエッチなことをしたいとささやいても、愛実さんはあまり乗り気にはなれなかったようだ。晶一さんも無理強いするつもりはなかった。
大学生となった彼女は、毎日、生き生きと生活していた。アルバイトも続けていたし、「今日は友だちとオールするから」と連絡があって、朝帰りすることもあった。10年遅れで学生生活を謳歌している彼女は、自分をどう思っているのだろう。僕は彼女のお荷物になっているのではないか。そもそもこの生活は事実婚なのか単なる同棲なのか、はたまた「兄妹の暮らし」なのか。晶一さんはときどき考え込むようにもなっていった。
「家事は適当に分担していました。平日の夕食は別々でしたね。彼女はバイト先で食べてくることもあったし。僕も残業したり同僚と飲みに行ったり、ときには接待もあった。洗濯掃除は気づいたほうがやることにはなっていたけど、ほぼ僕がやっていた。僕はひとり暮らしが長いから、特に不満はありませんでしたが、もうちょっと一緒に過ごす時間がほしかったけど、愛実は『私、おにいちゃんが家族になってくれてうれしい』とはぐらかす。いや、彼女ははぐらかしているつもりはないんでしょうけど、僕にとっては完全に彼女を自分のものにできない感覚があった。もちろん、人は誰かのものにはならないけど、なんていうのかなあ、彼女との絆は弱いままだという苦しさが抜けなかった」
***
徐々に愛実さんとの「絆」を求め始めた晶一さん……。【記事後編】では、とつぜん現れた彼女の“血の繋がらない姉”との関係を紹介している。
[3/3ページ]