「シンゾーは理解してくれていた」は真っ赤なウソ 元駐米大使が明かす交渉のウラ側 「安倍さんが追加関税に理解を示したことは全くない」
「安倍さんが理解を示したということは全くない」
相互関税を発表する際、トランプ大統領は「シンゾーは理解してくれていた」と、「日米貿易協定」の時の交渉相手だった安倍晋三元首相の名前を出しました。その交渉の場には私もいたものの、アメリカが一方的に追加関税を課すことについて安倍さんが理解を示したということは全くありません。アメリカの対日貿易赤字が大きな問題で、これを解消するために貿易協定を作ろうという話は間違いなくしました。しかし、安倍さんを含む日本側が「アメリカが関税を一方的に引き上げるのを認める」などと言ったことはただの一度もないのです。
確かに19年に貿易協定が締結されてからも、アメリカの貿易赤字は減っていません。トランプ大統領としては「協定を作ったのに状況が変わっていない」との思いがあるのでしょう。また、トランプ大統領にとって安倍さんの存在は大きく、あえて今回、名前を出したのではないでしょうか。
トランプ大統領に数字の話をしても「意味がない」
とはいえ、トランプ大統領の発言一つずつを深く考えることにはあまり意味がありません。彼は自分なりの理解でモノを言ったり、時として乱暴な表現をしたりすることがありますから。
例えば今年2月に行われた石破茂首相との日米首脳会談の際、トランプ大統領は「日本との貿易赤字は1000億ドルを超えている」と述べましたが、実際は約685億ドルですので、あまりに誇張した数字です。しかしそれを指摘しても「とにかく赤字がでかいんだ」と言われて終わりでしょう。そんな細かい議論をしても彼には響かず、意味がないのです。誰とは言いませんが、欧州のある首脳はトランプ大統領の発言の誤りを指摘したことで険悪な関係になりました。
トランプ大統領の場合、最初から数字の議論をしないほうがうまくいきます。安倍さんはそうしていました。もっと大きな方向性やビジョンをぶつけ、彼の考え方の回路にはまるような話をしながら、関税や対米投資の話をしていくのがいいのではないでしょうか。
後編【「中国に関税をかけるのは分かるけど…」ケント・ギルバート氏が語る相互関税 「トランプさんの行動は米国人から見ても理解不能」】では、「トランプの行動は理解不能」と語るカリフォルニア州弁護士のケント・ギルバート氏に取材。アメリカ人の立場から、相互関税問題について解説してもらう。
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