「シンゾーは理解してくれていた」は真っ赤なウソ 元駐米大使が明かす交渉のウラ側 「安倍さんが追加関税に理解を示したことは全くない」
【全2回(前編/後編)の前編】
世界中に衝撃を与えている「トランプ関税」。トランプ大統領は相互関税を発表する際、「シンゾーは理解してくれていた」と安倍晋三元首相の名前を出したが、元駐米大使・杉山晋輔氏は「安倍さんが理解を示したということは全くない」と真っ向から否定するのだ。
***
私は第1次トランプ政権時の2018年に駐米大使に就任しました。アメリカにいたのは3年弱。その間に行われた日米首脳会談にはほとんど出席しています。
トランプ大統領はちまたで言われるようなコワモテで乱暴な人ではなく、チャーミングな人でした。私と個別で話し合いをする時も、すごく優しく接してくれました。
トランプ大統領の関税引き上げへのこだわりは今に始まったことではなく、第1次政権時から主張していました。その後、4年間野に下り、昨年の大統領選で復活。基本的に「次」はない大統領ですから、やりたいことを思いっきりやろうとしているのでしょう。
自動車に対する追加関税は「絶対に認めらない」と主張
関税は、昔から国際貿易の一つのテーマでした。第2次世界大戦以降、世界は自由貿易へと向かい、各国は関税を段階的に引き下げていった。自由貿易を実現することで、国際社会全体が経済的に発展するべきだと多くの人が考えてきたわけです。それゆえ、GATT(関税と貿易に関する一般協定)とWTO(世界貿易機関)、いずれの時代も関税は引き下げていく、という考え方が基本でした。今回、トランプ大統領が打ち出した相互関税はそうした流れを完全にひっくり返す話で、私は反対です。
第1次政権時にも、日本の自動車に追加関税をかけるという話が浮上しました。当時、アメリカはロバート・ライトハイザー通商代表、日本は茂木敏充経済財政・再生相が主に交渉し、私も駐米大使として何度も同席しました。そして、最終的には、日本がアメリカから輸入する農産物への関税を引き下げることで、アメリカに輸出する自動車や自動車部品に追加関税を課されるのを回避できたのです。
その際、「自動車と自動車部品については関税を引き下げることに関して協議を継続していく」ということでアメリカと合意しています。19年10月に署名され、国会の承認を経て発効された「日米貿易協定」の附属書にも「further negotiations with respect to the elimination of customs duties」と書かれています。
対米輸出の3分の1が自動車関連ですから、そこに追加関税をかけられれば日本経済に大きな影響が出る。当時、自動車と自動車部品に対する追加関税については「絶対に認められない」とアメリカ側に強く主張しました。もちろん後々まで関税の引き上げを認めない、という約束をしたわけではありませんが、基本的には関税を引き下げることについて話をしていたわけです。今回トランプ大統領が、19年に締結された協定の考え方とは全く違うことをやっているのは間違いありません。
[1/2ページ]