「為書きの入ったサイン色紙は売れない」はカン違い…プレミアがつくサイン色紙の知られざる「3条件」とは
好きなものにお金を出せる人が凄い
今だったら、「転売品を高額で買うのは“本当のファン”じゃない!」などと言い出して、落札者を責める人が大多数でしょうし、確実に炎上していると思います。なるほど、今のオタクの価値観は、「公式で」「定価で」購入する人が“本当のファン”らしい。公式に金を貢ぐ人が偉くて、転売屋などの非公式なルートに金を出すのはダメみたいな暗黙のルールがあるようですね。
しかし、かつてのオタクの間では、どこで誰から買うのかなんてどうでもいいことでしたし、転売をすることも転売されたものを買うことも大して問題ではありませんでした。とにかく、好きなものに熱中し、お金を出せる人が凄いと見られていました。公式から買わなければ“本当のファン”じゃないというような、“界隈ルール”もなかった。周りの目を気にすることはなく、各々が自由な価値観で好きにオタク趣味を楽しんでいたと言えましょう。
――サインをした側も転売に怒ってなかったのですか?
公式に当たる企業側も、転売を問題にしていませんでした。先ほどのサイン色紙の件で、そのイラストレーターの画集に所属会社の関係者がコメントを寄せていますが、サイン色紙が高額で落札された件を取り上げ、人気がある証拠と肯定的にみているのです。周りの空気に流されやすい日本人の価値観が変わりやすいのはいつものことですが、転売を許さない空気感が醸成されたのは、本当にここ最近の話だと言っていいでしょう。
“宛名があれば値段が下がる”は間違い
――だいぶ世相が変わったと。
はい。急激に変わった印象がありますね。それにしても、SNSにコメントを書いているほとんどの人がコレクターではないので、的外れなコメントばかり目につきます。私が不思議だなあと思うのは、サイン色紙は“為書きがあると価値が下がる”という物言いです。曰く、“佐藤さんへ”のような為書きが入れば、本人以外に価値がないものなので、転売されにくいのだそう。作家も編集者もそう信じているようで、プレゼントやサイン会では転売防止と称して為書きを入れるのが一般的になっています。
確かに、声優やプロ野球選手のサインなら、為書きが入れば価値が下がるかもしれません。しかし、漫画家やイラストレーターに関しては、それが当てはまりません。私たちコレクターは、添えられた絵そのものに価値を見出して、色紙を美術品として見ているからです。「まんだらけオークション」で、為書きが入った色紙が数十万、数百万円で落札されていることからも、その傾向がわかります。
まあ、為書きはないにこしたことはありませんが、人気のある作家であれば、あろうとなかろうと取引価格に大きな差はありません。さらに言えば、近年の日本の漫画・アニメブームの影響で外国人のコレクターが増えていることも、為書きの有無が取引価格に影響しなくなっている要因でしょう。漢字も平仮名も読めない外国人にとって宛名などどうでもいいですし、なかには“鈴木さんへ”のような字を「クールだ!」と解釈する人までいます。
――一方で、コレクターの間で値がつきにくいものはありますか。
意外にも、値段が思ったほどつかないのは“作家同士の合作”の色紙です。A先生とB先生の絵が一枚の色紙に描かれているというものですね。これはチャリティーオークションなどで見られるのですが、コレクターではない人は「あの2人の作家が合作なんてすごい!」と思うかもしれません。しかし、A先生のファンだけれど、B先生のファンではないことはよくありますよね。A先生のファンにしてみればB先生の絵があると邪魔なので、値段が安くなる傾向があるのです。
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