「トランプ関税」で米国が支払う重いツケ…国債は「投げ売り」状態、「暗殺」も許容しかねない国民感情 「憎悪の政治」で“分断”が加速する

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世界各地で高まる反米感情

 トランプ関税のツケは甚大であり、経済の枠を超えて悪影響をもたらす可能性がある。破壊的で保護主義的な政策は、弱い立場にある貿易相手国を「軍事的な征服」なしに従属させることができる帝国主義の一形態だからだ。

 米国の著名な投資家バフェット氏が「関税はすぐに血を流すことはないかもしれないが、間違いなく報復を招く侵略(戦争)行為だ」と警告を発したように、世界各地で反米感情が高まることが危惧されている。

 米金融業界の首脳はトランプ関税がもたらす反米感情から世界各地の顧客がボイコットを起こすのではないかと肝を冷やしている(4月9日付ロイター)。

 この影響が既に出ているのは観光業界だ。

 米国政府によれば、3月の海外からの旅行者数は前年比11.6%減少した。中でもメキシコからの航空便での渡航者数は23%と減少の幅が大きい。カナダからの米国への旅行者数も、今年は大幅に減少することが確実視されている。

 欧州でもこの傾向が見られる。米CNNは11日「友人が殴りかかってきたようなものだ」と憤る親米フランス人の発言を伝えた。

 米国のソフトパワーは地に落ちた感がある。

リベラル・エリートに対する強烈な憎悪

 トランプ関税が米国の分断をさらに進めるリスクも見逃せない。

 ロイターが9日に公表した調査結果によれば、回答者の57%がトランプ氏の相互関税に反対しているのに対して、トランプ支持者は足元の物価上昇を気にすることなく「反対側にたどり着くには、時に火の中を歩かなければならないことがある」との構えだ(4月8日付BBC)。

 米国内で持つ者と持たざる者の間の対立の構図が鮮明になる中、トランプ政権の関税政策の目的は富裕層主体で肥大化してきた株式市場を罰することだとの見方もある(4月8日付ブルームバーグ)。

 気がかりなのは、取り残された人々への配慮よりも、リベラル・エリートに対する強烈な憎悪によってトランプ政権がつき動かされていることだ。その典型が『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)を執筆したバンス副大統領だろう。バンス氏は「基軸通貨ドルの存在が米国の国内産業の復活を妨げている」と述べ、ウォール街を痛烈に批判している。

 だが、ルサンチマンの政治は憎悪が憎悪を生み、米国の内部崩壊を加速させるだけだ。

新たな精神疾患「TDS」とは

 トランプ政権誕生後、米国で新たな精神疾患が生まれたようだ。

 トランプ氏に対する病的な批判を「トランプ錯乱症候群(TDS)」という精神疾患と定義する法案が3月中旬、ミネソタ州議会に提出された。法案を提出した共和党議員は「TDSは危険であり、トランプ支持者への暴力行為が起きる」と危機感を露わにしている。

 背筋が寒くなるような世論調査結果も出ている。

 米ネットワーク感染研究所(NCRI)が9日に公表した調査結果によれば、左派に属する米国人の55%が「トランプ氏の暗殺は受け入れられる」と回答した。

 トランプ政権を巡る情勢はこのように波乱含みだ。今後も細心の関心を払うべきだろう。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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