「米国からすれば、日本はワンオブゼム」 トランプ関税を招いた政府の失策 「安全保障を人質に取られ、交渉相手としては極めて面倒」

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「米国には安全保障を人質に取られているので……」

 追加関税発動前、対象国と交渉の余地があるのか問われたトランプ大統領は、

「かなり価値のあるモノを、われわれに提供する意向がある場合に限って検討する」

 と述べている。石破政権の外交敗北が決定的となった今、日本が切れるカードは残されているのか。

 現代アメリカ政治・外交を専門にする上智大学教授の前嶋和弘氏に聞くと、

「欧州であれば米国産のワインに関税をかけるとか、カナダであれば米国が使う肥料や原発用ウランなどをカードにすることができますが、日本には目ぼしい対抗手段がない。米国には安全保障を人質に取られていますので、交渉相手としては極めて面倒です」

 実は日本への自動車関税は、6年前にも発動されかけたが、回避された。その時に交わした約束を、今一度確認する必要があろう。

「協定に反したことはしないと約束したにもかかわらず……」

 経産省OBで、三重県知事を経て衆院議員を務める鈴木英敬氏が言う。

「第1次トランプ政権と安倍政権の間で成立した『日米貿易協定』において、自動車への関税を回避する代わりにアメリカからの牛肉や豚肉、チーズの関税を日本はTPPの締結国並みに引き下げることで合意しました。これが履行されている間、この協定に反したことはしないと約束したにもかかわらず、今回自動車への追加関税をやるということになった。これまでアメリカと結んだ貿易をはじめとする経済の取り決めが、第2次トランプ政権になって全て有効なのかどうか。検証しなければいけない事態になっています」

 いわば安倍政権時代の“遺産”を有効活用できないのだろうか。

「普通に考えれば『日米貿易協定』のように、それぞれに利害のある個別品目の取引を行うという場合もあります。さまざまな不確実性を都度しっかり分析することが大切。第2次トランプ政権との付き合い方を探る重要な機会ですので、政府としては関係閣僚チームを早急につくって臨む必要があると思います」(同)

米国の景気が後退する?

 確実に言えるのは、来年トランプ政権は中間選挙を迎えること。その時に有権者が経済政策に不満を抱えていれば、トランプ政権は関税に対して何らかの特例を設けるなどして、譲歩する可能性も捨てきれない。

 経済の常識に照らせば、今回の関税分の負荷を支払うのは米国民である。GMやフォードなど米大手の自動車メーカーでさえ、今や多くの車を海外で生産、米国内へ輸入している。このままでは車の販売価格上昇は避けられないのだ。

 米国政治外交に詳しい同志社大学大学院教授の三牧聖子氏によれば、

「関税政策で短期的には米国内の物価が上昇して消費が冷え込んだ結果、早ければ今年中か来年にも景気が後退するという話も出ています。それでもトランプ政権は、米国内に製造業を取り戻す手段として短期的な痛みはやむを得ないと、自動車への追加関税を課した。会見でトランプ政権は『短期』がどれくらいの期間を指すのか問われても、きちんと説明していません」

 関税という疫病神が、米国経済の急所であることがあらわになった今こそ、日本の動く時かもしれない。

 前編【「F1でホンダが強くなると、運営する欧米勢がルールを変えて…」 元ホンダ副社長が語る、日本の自動車産業“試練”の歴史】では、今回のトランプ関税が「起こるべくして起こった」という元ホンダ副社長・入交昭一郎氏の証言を紹介。日本の自動車産業の「試練」の歴史について報じている。

週刊新潮 2025年4月10日号掲載

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