「米国からすれば、日本はワンオブゼム」 トランプ関税を招いた政府の失策 「安全保障を人質に取られ、交渉相手としては極めて面倒」
「会談は成功裏に終わったと喧伝してきたが……」
【前後編の後編/前編からの続き】
「米国の『解放の日』の始まりだ」――。そう米大統領が息巻くと、東証の平均株価は今年最大の下げ幅を記録した。日本経済の根幹である自動車業界に激震が走っているが、われわれになすすべはあるのだろうか。
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前編【「F1でホンダが強くなると、運営する欧米勢がルールを変えて…」 元ホンダ副社長が語る、日本の自動車産業“試練”の歴史】では、今回のトランプ関税が「起こるべくして起こった」という元ホンダ副社長・入交昭一郎氏の証言を紹介。日本の自動車産業の「試練」の歴史について報じた。
今回の問題について、「予測不能の男」が相手とはいえ、こうした異常事態を引き起こしたのは石破政権の手抜かりでもある。
「2月7日に米国で行われた初めての日米首脳会談に際し、日本側は米国産液化天然ガスの購入や対米投資額の1兆ドルへの引き上げといった“手土産”を持参。会談は成功裏に終わったと喧伝してきました」
とは、政治部デスク。
「会談後の共同会見で、米国記者から『“関税男”のトランプ大統領からもし関税をかけられたら、報復関税をするのか』と尋ねられた石破茂首相は『“仮定の質問にはお答えしかねる”というのが日本の定番の国会答弁です』などと応じ、笑いを誘っていたのです」(同)
“失態”に追い打ちをかけるように
初めての顔合わせで、対日関税の話題を回避できたと喜んだのもつかの間、その3日後にトランプ大統領は鉄鋼・アルミニウムへの追加関税を表明。続けて2月14日には自動車への関税措置にも言及したのである。はしごを外された格好の石破政権はといえば、
「2月17日の会見で林芳正官房長官は、その前々日の日米外相会談で自動車関税が話題になっていたとし、『米側と意思疎通をしている』と説明しました」(前出のデスク)
ところが情勢は一向に好転せず、
「3月10日には武藤容治経産相が、関税と貿易政策を担当するラトニック商務長官や米通商代表部代表らと、ワシントンで相次いで会談。それでも、日本を関税適用から外すという言質は『取れていない』と、あっさり認めるありさまでした」(同)
そうした“失態”に追い打ちをかけるように、ラトニック長官はその後、米テレビのインタビューで、
〈日本が、韓国やドイツなどに比べて不当に有利にならないようにする〉
と述べたのだった。
「米国からすれば、日本はワンオブゼム」
すっかり「ぬか喜び」に終わってしまった初会談。政治ジャーナリストの青山和弘氏は、
「2月の会談は、日米同盟を基盤とした両国の関係維持が大きな目的でした。日本側はトランプさんとの関係を決裂させないためにも、相手を挑発しかねない関税などのテーマにはあえて立ち入らないことにしていたのです。一方で石破さんは、トヨタといすゞによる投資拡大や液化天然ガス開発プロジェクトでの協力など、追加関税の例外扱いをしてもらうためのストーリーも描いていました」
また、3月の武藤経産相の訪米では、
「雇用や投資など、日本の自動車産業がどれだけ米国に貢献しているかを懇々と伝えた上で“追加関税で日本に損失が生じれば投資もままならない”といった論法で交渉したのですが、認められませんでした」(同)
さる27日の参院予算委員会で石破首相は、対抗措置として“あらゆる選択肢が検討の対象”と述べていたものの、
「報復関税はしないと周囲には明言しています」(同)
とのことで、なおも根拠の乏しい「観測」を持ち続けているという。
「石破さんも武藤さんも、ラトニック長官などトランプさん以外の閣僚は“日本の言い分を理解してくれている”という感触を得ているようです。つまりは“粘り強く交渉すれば分かってくれる”というわけですが、実現するかはまだ不透明です」(同)
政治アナリストの伊藤惇夫氏が言う。
「米国からすれば、日本はワンオブゼムでしかない。トランプ大統領を相手に、会えば何とかなるという期待を抱いたこと自体、外交を理解していないと言わざるを得ません」
暴君が統べる国に、楽観論や性善説は禁物である。
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