「F1でホンダが強くなると、運営する欧米勢がルールを変えて…」 元ホンダ副社長が語る、日本の自動車産業“試練”の歴史
「簡単には元に戻らない」
【全2回(前編/後編)の前編】
「米国の『解放の日』の始まりだ」――。そう米大統領が息巻くと、東証の平均株価は今年最大の下げ幅を記録した。日本経済の根幹である自動車業界に激震が走っているが、われわれになすすべはあるのだろうか。
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現場の悲痛な叫びを受け止め、当のメーカーや政府はいかに振る舞うべきなのか。
かつて日本自動車工業会会長を務めた志賀俊之・元日産自動車最高執行責任者(71)が言う。
「自動車は、どの国でも基幹産業の一つです。ところが米国の乗用車の関税は2.5%と、これまで驚くほど寛容でした」
米国は長らくGDP世界一の座にあり、
「その大国の大らかな姿勢が世界の経済を発展させてきた面はありますが、『米国ファースト』を唱えるトランプさんが出現したことで、今回の問題は起こるべくして起きたといえます。米国は、自動車市場を過剰に開放した結果、経常収支や貿易収支が赤字になってしまった。今後、関税率の上下はあるにせよ、このトレンドはしばらく続き、簡単には元に戻らないと思います」(同)
トランプ氏の横暴というよりは構造的な問題だというのだ。
「国同士の紛争にまでつながりかねない問題」
「関税をゼロにすることで賃金の安い国に仕事が行き渡り、その国の輸出が増えれば経済が上向いて為替も上がる。すると輸出が難しくなり、また別の貧しい国に仕事が流れていく、そうして世界が豊かになるというのが経済合理性の考えです。米国は自国の富を世界中に分配し、結果的に寛容になり過ぎて仕事がなくなり、ラストベルト(さびついた工業地帯)が生じた。そこにトランプさんが登場したのです」(志賀氏)
先の大戦は、ブロック経済において各国が関税競争をしたことが原因の一つといい、
「今回もまた、国同士の紛争にまでつながりかねない問題をはらんでいます。米国では産業の新陳代謝があり、GAFAやオープンAIなどで潤っている。自動車に代わる新たな産業を構築するとともに、世界的なダメージが減る“落としどころ”を各国の首脳陣が協議していくのが理想なのですが……」(同)
“日本は失業を輸出している”
一方で、
「われわれはこれまでもマーケットの変化に対応してきました。今回も『やるしかないし、やれる』と思います」
とは、元ホンダ副社長の入交昭一郎氏(85)である。
「戦後の日本は1960年ごろから貿易立国を目指すようになりました。食料もエネルギーもないので、それらを海外から買うためにモノを作って海外で売ったのです。これが大体20年続いて80年前後になると、日米貿易摩擦が生じ、『日本は失業を輸出している』と言われました。当時私も米国と交渉しましたが、結論は“日本も変わらなければ”でした。つまり“需要がある国で生産する”方法への転換で、われわれはこれをインターナショナリゼーションと呼びました」(同)
日本中の企業が海外進出を果たした時期である。
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